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2012年12月

17日

Dream Journal 3

乗り物という乗り物が全て動かず仕方がないので歩いて帰った。随分歩いた。順調に歩いた。足早に歩いた。退屈に歩いた。何日も歩いたと思う。あとは、この山を越えれば、家につく、というところ。ずっと隣を歩いている長いさらさらの髪の女が誰かはわからず、ここまで一言も口を利いていないし目も合わせていないが、女も私と同じところに帰ろうとしていたのと、私も女も、あともう少し、と知っていた。

最後のアスファルトの坂道を上っている。前方、坂の頂上のもっと向こう、向かっている先の向こうの山の頂上から、一瞬、火のようなものがあがったのを見た。「あれ!」と、私は言って、ほとんどはじめて立ち止まって山を指差すと、隣の女は「火だ!!!」と、やっぱりほとんどはじめて立ち止まって、同じ前方にある別の山を指差した。女の声をはじめて聞いた。女の顔をはじめて見た。くっきりして大きな目鼻口に、さらにばっちり濃い化粧をしていて、その上に一層目を丸くして、鼻の穴を広げ、頬を赤らめていた。幼稚園にサンタクロースが入ってきた時の、じゅんちゃんの顔を思い出す。じゅんちゃんは男で、目も鼻も口も小さかったけど、その時じゅんちゃんは、今の女と同じ顔をした。手を叩いて飛び跳ね叫んでサンタクロースにしがみつき、サンタクロースのひげがはがれて、サンタクロースがサンタクロースでなくてチバ先生だった時、じゅんちゃんはうつ伏せになって顔を床につけ、両腕をまっすぐ上にのばしたまま何時間も泣いた。

女の指す山は真っ赤に燃えていて、ここからもはっきりと見えて時々炎があがり、火ははみるみるうちに広がっていて、すぐにも私が指した方の山にも移るだろう。と、思ったとき、坂の上の向こうから、次々と人々が走り出てくる。人々は急いでいて、あまりに急いでいて、中には転がりくだる人もいた。誰も声をあげていない。誰も連れ添っていない。誰も後ろを見ない。誰も私や女を見ない。次々と、パラパラと、一人ずつ、たくさんの人々が、前のめりに、私と女が今登ってきた坂道をくだった。坂の上の方に、炎に包まれて燃えあがる人が出てきたのを見て、女と私は「わ」と同時に言った。燃えた人は、くるくると回ってうずくまって、坂の向こうに消えた。

人々はどんどん増えた。私と女だけが、人々が急ぐ先と反対の方を向いている。あともう少し、だったのだ。走りくだる一人の男が近くまで来た。男の背負っているリュックの肩かけの部分が燃えていた。「火!!火!!!」と、男に言うと、男は一瞬キョロキョロと周りを見回し、右肩の火に気がついて慌ててリュックを下ろすと、足で踏んで消火した。その間にもたくさんの人が、男を飛び越えてくだっていった。男はリュックの火を消すと、こちらを見て肩をすくめて少し笑い、またリュックを背負って走りくだっていった。山からまた炎があがった。女が皆と同じ方向へ、ゆっくり後ろ向きのままくだりはじめる。どうやら引き返すしかなさそうだ。

走った。走った。走った。火の山を背にして、もと来た方へ走った。人々と同じようにして走った。女も隣で走った。後ろを振り返ると、火の山がゆっくり崩れはじめ、こちら側に流れてくるのが見えた。ますますたくさんの人々は、ますます走った。坂をくだりきり、道はなくなり、いつのまにか森の中を、そして人々はバラバラの方向に走った。どの方向が向かうべき方か、逃げ切れる方か、わからなかった。私と女は、ただただ近くの人々の流れにのって走った。別の方向に反れていった先を行く人々が、追いついた土砂にのまれるのを見た。

「のぼれ!!」と誰かが言うのが聞こえて、私と女は、目の前に現れた古い塔の階段を登った。近くの人々が続いてきた。てっぺんまで登ると、人々の重みで塔がゆれた。塔の横の大きな岩が動く。よく見ると岩ではなく、大きな大きな象の頭頂部だ。4、5頭の象が、塔の横の木々の間でぴったり寄り添っていた。「動物園から?」と女が言った。「わからない」と、私は声に出さずに言って、塔から象の背中に飛び移った。象たちは木に挟まって、お互いの体もくっついて、動けなくなっていた。下には象の足の間を逃げ走る人々がゆくのが見える。飛び乗った先頭の象の背中は湿っていて、目からは涙が流れていた。私は象の背中から、再び塔のてっぺんに飛び戻った。山が、どろどろの土砂が迫り、ゆっくりと塔が倒れはじめた。

倒れる。倒れる。倒れる。人々は塔のてっぺんにしがみついた。塔の倒れゆく先に、別の高い建物が見える。少し離れているが、隣で女が息をのんで、そこに飛び移ろうとしているのがわかった。女が飛んだ瞬間に一緒に飛ぼうと私も女と息を合わせた。落ちるかもしれない。飛ばなかろうと落ちる。今か。今か。今か。倒れている途中にも、しかしどうやら塔は高くのびているようだった。だんだん速くなるのは、倒れているスピードか、のびているスピードか、わからなくなった。見当をつけたようには建物に近づかない。女も私も飛び移る機を逃した。塔の先は空にのびながら地面に近づいていく。土砂を過ぎた。森を過ぎた。畑を過ぎた。私は目を瞑った。

気がつくと、私はまた走っていた。女も走っていた。走って、走って、何日か前に通り過ぎた、見知った街の広場に出た。ここでは人々は騒がしく声を上げ、辺りをうろうろしたり、寄り集まってしゃがみこんだり、泣いたり叫んだりしている。私と女は走り止まなかった。「吸い込むな!!」と誰かが言うのが聞こえて、マスクをしたり、口を押さえている人々とすれ違った。「マスクだよ」私は女に言った。同じものを見ている女は返事をしなかった。たどり着いた人々が群がるコンビニには、入り口自体にに巨大なマスクが着けてられている。「ぜんぶ封鎖」女が私に言った。見渡す限りの店という店が、マスクを着けていた。

また目の前を、走る人々の群れが横切る。人々の走り来る路地の先を見ると、大量の水が建物の隙間を流れきていた。火でない、土砂でない、今度は水だ。テレビかネットで見た、と思った。私はまた流れにのって、人々の逃げる先に走った。女は私の前にいた。女は人々から反れて、左の路地を入った。私は女についていった。女は、もう一度、今度は右の路地へと曲がった。私は女についていった。女は、曲がってすぐの建物のガラスの引き戸を引いて中に滑り込み、私の腕をつかんで勢いよく私を中に引き入れると、ぴしゃりと戸を閉めた。「ここなら大丈夫」女は言った。小さくて古いマッサージ店だった。中に入ったことはないが、この店の前を歩いて通ったので知っていた。「水が過ぎるまで」女は言った。

店の中には、白衣を着たおじいさんが立っていた。「ひどいなあ」と、おじいさんは、ガラス戸の向こうの外を見ながら言った。外は薄暗くなっていて、私には様子はよく見えない。奥のカウンターの向こうから、白衣を着たおばあさんが出てきた。「あら、こんにちは」おばあさんは、ゆっくり深く頭を下げてから、ゆっくりカウンター近くの椅子に座り「大丈夫かしら?」と、私の方を向いて言った。「大丈夫です」私は早口に言いながら、おばあさんの方に向き直ろうとして、ちょうど私の後ろにあった膝の高さくらいの固い簡易ベッドのようなものに躓き、そのままよろけてベッドに尻餅をついた。慌てて立ち上がろうとして手をベッドにつくと、今度はそのまま肘が折れてベッドに横になった。頭の下には、固くて小さな枕があった。「ご、ごめんなさい」私は起き上がろうとした。起き上がれない。起き上がろうとした。起き上がれない。腕も足も動かないのだ。「ごめんなさい」私は横になったままもう一度言った。女が私の顔を見て、頷いた。急に眠気が襲ってきた。

「せっかくだし、マッサージを受けていかれてはどうですか?」おばあさんは、起き上がれない私に言った。「いえ、あの、結構です」と言おうとすると、今度は口が動かない。「ああ、いいよ」かわりに、おじいさんが外を見たまま言った。ガラス戸の外に、白衣の若い男が現れる。男はガラス戸を鏡代わりにして長い髪を後ろに束ね、白衣を整えると、店の中に入ってきた。どこかで見たことがある、と思ったら、女と歩きはじめる前の晩に寄ったライブハウスで、今と同じように髪を後ろに束ね、黒い皮ジャケットを着てベースを弾いていた男だった。ライブが終わると各テーブルを回りはじめ、近くに寄ってきては、私のタバコケースに名刺を入れて黙って去っていった男だった。名前は思い出せない。肩書きのところには『代表』と書かれていた。横たわっている私を見て、白衣を着たベースの『代表』は「メール待ってたのに」と、言った。

白衣を着た若い男たちが、他にも次々に入ってきて、数えられないほど入ってきて、私を囲む。私は身動きができない。おじいさんは、黙って外を見たままだ。女は見えない。男の一人が、私のズボンを膝までまくり上げた。別の男が「では、はじめます」と言った。別の男が、右足首を押さえた。別の男が、左足首を押さえた。別の男が、私のスネを一撫でした。男たちが一斉に、私の顔を見た。別の男が「どうですか!?」と聞いた。私は口も利けず、触られている感覚も全くなく、辛うじて少しだけ首を傾げる。男が代わる代わるに、私のスネを撫でた。代わる代わるに私の足の指を動かしている者もいた。足の指の男が「あっ!!」と声を上げた。男たちが一斉に、私の顔を見た。別の男が「いいですか!?」と聞いた。私は辛うじて少しだけ目を動かす。「今のはすごい!」「これはきたね!」次第に男たちは騒がしくなり、私は感覚のない足を触られたまま、いつのまにか眠っていた。

目を開けると、白衣の男たちはまだそこにいて、私から少し離れて立っていた。私はベッドから体を起こした。手も足も動いた。「そろそろだよ」と、外を見ているおじいさんの隣で女が言った。私はまくられたままのズボンをおろし、靴下を履こうとする。なんだ。右の足の中指が、長くのびて奇妙に曲がって、ぶらぶらになっていた。「これなんですか?」私は自分の足をあげて近くの男に聞いた。とくに足を確認することなく「痛いですか?」と男は言った。痛くはなかった。「では戻してみてください」男は言った。戻す?どうやって?私は全足指を動かしてみたり手で触ってみたりする。やっぱり中指だけが思うように動かずにぶらぶらしている。「できません」私は言った。男は「ま、いいでしょう」と言って、そのまま私に靴下をはかせた。「いいんですか」痛くもなかったし、普通に歩けもしたので、私はそのまま外に出た。

水だ。私と女はまた走っていた。今度は逃げ場がなく、水はもうすぐそこまで来ている。水に乗って流れてくる建物があった。近くの人々はその建物の中に流れ込んでいった。「そこに入ったらおわり!!!」女の叫ぶ顔を見ながら、私の体の半分以上はもう建物の中に入っていて、そのまま水と人々に押し流され、建物の中に入った。ドアがしまった。女とはぐれた。ここに入ったらおわり。慌てて出ようとするが、外は水かさが増していてドアはもうびくともしない。ここに入ったらおわり。建物は、地区会館のような一部屋の広間の平屋で、斜めに傾いていた。中の人々は、みんな落ち着いていて静かに、誰も動かなかった。ここに入ったらおわり。外の水かさは増していて、建物はどんどん沈んでいく。私はまだ水の届いていない窓に走った。思い切り叩く。割れない。水が迫ってくる。叩く。割れない。水に埋まる前に。叩く。割れない。黄色いジャンパーの中年男が近づいてきて、その窓を叩いた。ヒビが入った。今だ。私は思いっきりそのヒビに頭突きし、上半身をねじ込んだ。建物の中に、割れた箇所から水が入り込む。黄色い男は下から支えてくれた。出た。私の上半身は外に出た。一面が、黄土色の静かな水だった。誰もいない。女も見当たらない。これはすごい。私は写真を撮ろうとする。右ポケットに入っていたiPhoneは、ちっとも動かなかった。

荒野を歩く。女も歩く。熱い。日差しがきつく、からからだった。ゆっくり歩く。遠くに見慣れたボロボロのアパートが見える。歩く。近づく。帰ろうとしていた家ではないか。近づく。いつもと少し様子が違う。歩く。近づく。たくさんの絵が、アパートの玄関、壁、ベランダ、前の広場に、びっしりと並べられていて、それは隣の部屋の前まで浸食していた。近づく。歩く。近づく。歩く。見たことのある絵だった。近づく。これは全部、私の絵だ。歩く。近づく。「59」という黒い大きな見慣れたフォントのロゴが書かれた看板が見えた。歩く。近づく。絵と一緒には、ろうそくとお香のようなものがたくさん焚かれている。赤。青。緑。黄。茶。白。オレンジ。私は立ち止まって、少し遠くからそれらを眺めた。女も同じく立ち止まった。玄関の横の椅子に、黒い服を着て帽子をかぶった男が一人座っているのが見える。顔をあげた。父だ。父は立ち上がって、こちらの方を見た。私は立ち止まったまま、両手をまっすぐにあげて「よー!」と声をあげた。間があって突然、父の顔はくしゃくしゃになり、それから声をあげて泣きはじめた。私はそのまま前に倒れた。どれくらいそうしていただろうか。私の隣で女は「じゅんちゃんみたいね」と言った。

部屋に入ると母がいる。母は台所に立っていて、いつもの調子で「あら、おかえり」と言った。「お腹すいてなあい?」と言った。弟は携帯をいじりながら、ゲームかなにかをしていて、こちらを見向きもしない。私はそれよりも、外が一体どうなったのか知りたくて、テレビをつけた。どのチャンネルでも、バラエティー番組しかやっていない。「久しぶりにね、Skypeで話したのよ、おっきくなってるわー」母は言った。外国にいる妹に産まれた子どもの話だった。
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2012年11月

08日

Back To The Pyramid

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2012年09月

14日

Destructive Moment

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2012年09月

11日

Dream Journal 2

みんながワタシを見ている。特にダニーの目ときたら。少し中央に寄った、ただでさえ大きくて丸くい目を、それはそれは大きくまんまるに開けて、こぼれ落ちそうに、それはそれは真剣な表情で、時々深く頷きながら。なんだその顔は。おまえは目か。いつもならワタシは吹き出して、それから気がついてダニーも笑うのですが、今は心の中で吹き出していても、それは誰にも気がつかれずに、だからダニーもその顔をやめないのです。ひ、ひゃ、ひゃ。

ダニーの目の先、ワタシのお腹は破裂しそうにパンパンで、ときどき裂かれるような痛みがワタシの体中にめぐり、ワタシは立っていることはもちろんできず、ぶるぶると震え、汗は流れ、鼻水は流れ、手を伸ばしてつかめるものなら、なんでもつかんだ。頭上のパイプは、もうぐにゃぐにゃに曲がってしまっている。ごめん。と言いたくても、もう声は出ない。息も止まっているが、時々誰かに叩かれて、大きく吐いて吸い込んだ。あとで謝ろう。あとでダニーの目のことも笑ってやる。早く終わってくれないか。

キャシーが時々、汗を拭いてくれた。パトリックは、団扇を持って仰いでいたが、それは遠くてワタシにまでちっとも届かず、だからパトリックは、届く場所を探しては、人々を縫っておろおろしているので、「邪魔」と、いつものようにキャシーに叩かれていた。パトリックはいつも、何をしても、キャシーだけでなく、いろいろな女の人に「何やってんの?」と、怒られる。怒られないように動こうとするほどに、怒られる。じゃあいっそのこと、と、何もしなくても、何もしないと怒られる。う、ぷ、ぷ。

最大の痛み。これは大きい。これかしら。もう周りは見えなかった。そこは真っ暗で、お腹にある痛みだけが、世界のすべてになった。宇宙の中に、お腹だけが、でっかく、でっかく、でっかく、でっかく。ああこれか。それはゆうっくりと回り、ゆっくりと、ゆっくりと、裂けていった。そうしてお腹は、宇宙と繋がりました。

気がつくと、まぶしくて、部屋の中の人々は小声でがやがや呟いていた。部屋の外にもたくさんの人がいるようで、時々、生まれた、生まれた、と声がする。ダニーもキャシーもパトリックも、もう誰もこちらを見ていない。ワタシはようやく一人で体を起こして、人々の見る先に目をやると、そこには、吊るされていた。あんなに大きなパンパンのお腹から、あんなに痛みを伴って出てきた、ほんのこぶし大の、毛のない、ピンク色の、湯気のたった、両手と両足がそれぞれに長さの違う、頭の大きい、顔のつぶれた、それは小さな小さな、猫だった。わあ、なんて醜いの。

ねえ、もしもし?どうしてあなたたちはここにいるのですか?それはワタシのお腹から出てきた猫です。そう、ワタシの猫です。ということはロバートの猫でもあります。ワタシははやくその猫を抱きたい。ものすごく抱きたい。なんだこの人々は。なんだその目は。見ないでくれ。帰ってくれ。人々は、その醜さにうろたえ、立ちすくみ、かといって嫌悪も露にせず、どう評価するべきか錯誤し、目を大きくあけ、口角をあげながら、互いに顔を見合わせ、素晴らしい、と言ってもいいか、これはひどい、と言ってもいいか、確認するように、小刻みに頷きあっていた。

ワタシは気分が悪くなり、猫には近づきもせず目もくれず、何事もなかったようにベッドを居りて、部屋を出る。部屋の外の人々は、どうやら猫を見てもいないようで、ひたすらに大声で喜び合っていた。おめでとう!おめでとう!囲まれて、おめでとう、と言われているのはエイミーだ。エイミーは、ありがとう!ありがとうございます!と、とても嬉しそうに笑っていた。エイミーは、ただ1人、部屋から出てきたワタシに気がついて「あ、あの子です、産んだのは!」と言った。誰も聞いていなかった。

エイミーが、人々から離れてワタシの方に近づいて来る。「おつかれさま」ワタシの肩を叩いて笑った。「あの、ロバートは」とワタシはエイミーに聞く。「ちょっとわからない、この人々でしょ?きっと出てこないわ」と、エイミーは言った。ワタシは階段に腰掛けた。エイミーもワタシの隣に座った。声が出せない。疲れていた。「あ、、、」ワタシはずっとエイミーに言わなければならないことがあったのだが、それをちっとも思い出せない。エイミーはワタシの顔を覗き込み、きょとんとした顔で、それから頷いて、またワタシの肩を叩いて笑った。

人々は相変わらず、がやがやと、そこら中にいた。いつのまにやら人々は、ドレスアップをして、シャンパングラスを手にしている。踊っている人々や、歌っている人々、床を拭いているタキシードのウェイター。ワタシは、汗をかいたボロきれをまとったままだ。ウェイターがワタシに近づいてきて「大丈夫ですか?」とシャンパングラスを差し出した。ワタシは一瞬に微笑んで、通り過ぎる。ワタシの猫。猫はどこかしら。もう誰も、ワタシの猫の話をしていなかった。

ベランダにロバートが見えた。ワタシは人々を縫って近づく。するとロバートはワタシの猫を抱いていたのです。ワタシの猫!両腕で猫を抱えて顔を近づけながら、ロバートは泣いていた。ワタシもあんな風に早く抱きたい。人々を縫って近づく。エイミーがロバートの隣にいた。エイミーも泣いていた。エイミーはロバートの背中をさすり、それからワタシの猫に顔を近づけて、ロバートと顔を見合わせて笑っていた。ワタシもあんな風に早く抱きたい。人々に遮られて近づけない。するとエイミーがワタシに気がついて、優しく手招きをしました。ロバートも気がついて、笑いながらワタシにその猫を差し出した。

ああ!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシはワタシの猫を抱いた。ロバートとエイミーは、また人々に気がつかれて、囲まれていた。ワタシの猫は、しわくちゃにあくびをして、口をむにゃむにゃさせ、「にゃあ」と鳴きました。

メールが届く。エイミーからだ。ワタシの猫の写真も添付されている。
「みなさまへ。ご報告があります。ロバートに子どもが生まれました。かわいいかわいい男の子です。私たちは『ココト』と命名しました。すっごく素敵な名前がついたと思います。その節は、ほんとうに皆様、たくさんありがとうございました。これからココトを、大切に大切に、育てていきます。これからも応援よろしくお願いいたします。エイミー」

ワタシの猫。男の子。ココト。すっごく素敵な名前だわ。そうじゃない。そうじゃない。すっごく素敵な名前。そうじゃない。ワタシはどうして自分が震えているのかわからずに、エイミーに「すっごくすてきな名前だわ、なんだかおかしいわ、震えます」返信すると、エイミーからは返事がなかったので、すぐにロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!なんだかおかしいわ!」
RO「どうしたの」
ME「ワタシの猫かしら!」
RO「そうだよ、キミの猫だよ」
ME「そうよね、そう!」
RO「どうしたの、名前が気に入らない?」
ME「すっごくすっごくいい名前!」
RO「でしょ、すっごく考えた、エイミーも気に入ってる」
ME「ワタシも、ちょうど、そうつけたいと思ってた!」
RO「そうだと思った」
ME「そうなの!?」
RO「もちろん」
ME「ココトは元気!?」
RO「元気だよ」
ME「あのね、ココトはどうしてここにいないのかしら!?」
RO「わかるだろう、仕方がないね」
ME「わかるだろう、仕方がないね!?」
RO「キミの、ココトだ、何よりも大切にするから、大丈夫」
ME「ありがとう!本当にありがとう!」

それからワタシは毎日からだが震えはじめた。お手伝いのロッテンマイヤさんは、頻繁にワタシの部屋を訪ねてくるようになった。ワタシは子どもの頃から、ロッテンマイヤさんが大好きだ。ロッテンマイヤさんに、こんな姿を見られるわけにはいかなかった。ワタシは、ロッテンマイヤさんに、もう部屋には来ないようにお願いし、からだが震えはじめると、毎日ロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!なんだかおかしいわ!」
RO「、、あのね、もういいよ」
ME「なにがいいのかしら!」
RO「、、キミの電話だ」
ME「そうよね、そう!」
RO「、、ココトは元気だよ」
ME「よかった!ありがとう!」
RO「もう電話しないでくれる、大変なんだ」
ME「でもワタシは震えるの!」
RO「狂いそうだ!!」
ME「狂いそうだ!?」
RO「もうやめてくれ!!」
ME「ロバート大丈夫!?あなた今どこにいるの!?」
RO「外だよ」
ME「ココトはお家かしら!?」
RO「ああ」
ME「エイミーが見てくれているのかしら!?」
RO「エイミーも忙しいんだ、いないよ」
ME「なんてこと!今すぐ帰って!ミルクをあげて!」

ロッテンマイヤさんと外に出た。パトリックが運転する馬車の荷台に、ダニーとキャシーとロッテンマイヤさんと4人で乗る。いけない。ワタシのからだがまた震えはじめた。ワタシは外を見て、みなに気がつかれないように、気がつかれないように。外はいつも通り、つまらない四角い暗い色の家々が、延々と並んでいる。ワタシ以外の3人がしていた話は何も聞こえてなかったが、それはロッテンマイヤさんが「それは仕方がないですね」と言い、ダニーが目を大きく丸くして「そそそ、仕方ない、仕方ない」と答え、みんなが笑った瞬間でした。

何かが、ものすごく熱い何かが、ワタシの足下から、すごいスピードで頭のてっぺんまでのぼり、ワタシの鼻にはシワが寄り、ワタシの口は大きく開き、ワタシの右腕は、思いっきり宙を横切った。キャシーが悲鳴をあげた。ロッテンマイヤさんの額に、赤い血が浮き出たと思ったら、それはたらたらと流れはじめたのです。ダニーが目を丸くしたまま、自分の服を脱いで、ロッテンマイヤさんの額に当てる。「あらあら、大丈夫ですよ」ロッテンマイヤさんは言った。血は止まらなかった。どうしよう、何をした、ワタシはロッテンマイヤさんになんてことをした。ワタシはロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!これはあなたのせいよ!」
RO「いい加減にしろ、なにがだよ!」
ME「ロッテンマイヤさんまで傷つけたわ!ワタシがね!どうするの!!」
RO「知るか、きちがい!!」

血だらけのロッテンマイヤさんが、笑っていた。「もう少しですよ」と、ワタシに言った。「あの、なにがかしら」と、ワタシは答えた。「あら、いやだ、私はあなたに肝心なことを伝えていなかったから、いやだ、あら、聞いていないわね、いやだ、あら、もう、本当にごめんなさい、ロバートさんはココトさんと、まあ、いやだ、ロバートさんはココトさんと、今こちらに向かっているんですよ」と、ロッテンマイヤさん。

ロバートが立っていた。両手をジャケットのポケットに突っ込んで、こちらを見ている。向こうから光が射していて、顔はよく見えない。キャシーが、わあ!と言った。ロバートの足下から、見知らぬ男の子がおぼつかない足取りで走り出てきた。肌は透き通るように白く、栗毛の、丸い目、真っ赤な唇とほっぺ。フードの付いた赤いダウンジャケットを着て、濃いブルージーンズに、真っ黒のスニーカーを履いている。男の子は、そのまま真っすぐにしゃがんでいたワタシのところに来ると、ゆっくり手を伸ばしてワタシの顔に触れた。ワタシの顔はびしょびしょに濡れていた。濡れた顔を触りながら男の子は、けけけけけけけ、と笑った。

2012年09月

08日

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2012年09月

07日

Going To Tampico

Too bright. Hot. Blue. I'm dying of thirst. My body is soaking wet. Not wearing anything. Except underwear, socks and shoes. Hot. Dazziling. Where am I. There is a dilapidated small white cottage standing nearby. A tricycle, broken hula-hoop, toy ass with big eyes, and a red shovel are lying around. Nobody is here. Where has the guy gone. Oh. I need water.

The guy said to me "let's go." He walked by squirming his whole body because he had no limbs. It was as fast as I did. When he shook his head, it sounded as Clink, Clink, Po, Wawawawawa. It was very soft and high-pitched sound I had never heard of, anywhere. Every time the sound came, I looked around as I didn't know where it came from at first, so that the guy laughed at me bending his abdominal area at a right angle.

Clink, Clink, Powapowapowa, Clink, Po Wawawawawawawawa. My eyes got heavy with the sound, and I felt like someone held up my head and gently rolled. I asked him to shake his head several times, after I realized he sounded it, but it seemed even he himself didn't know when he shakes his head. He had not a hair of his head and face even though his whole body was very hairy. Wawawawawa, Powa, Clink, Clink, Clink.

I slept. Gonzales was jumping up and down, pulling on a boxing glove. "Look, like this! Look, like this! React to your move at once, and hit! Now, come!" Gonzales stood towards me and poised. "Now, come!" I was about to move. "Aye! This." I was about to move again. "Aye! This, at once, understood?" I didn't understand at all. "Do you think you are doing counter?", said a man wearing whole white clothes. He was bigger than Gonzales. "Oh dang! Time to go!", said Gonzales and he ran away. "What the fuck, you are soaking wet." The white clothes' man said to me. I nodded, he eyed me up and down in silence for a while, and I couldn't move. The white clothes' man, with scary smile, came close to me.

"Get up!! Well then, wanna see boobs?", the guy said. Actually I wanted to drink water than boobs, but I got up and nodded. Just then, in front of us, a woman in a black suit and a black hat appeared. I felt myself being sucked into her big black eyes staring us and her soft-looking smooth skin. The woman, still staring us, gave me a wink. I darkly moved towards her, and slowly extended my arm to her face.

"Nope!!!!", the guy screamed. I was frightened and my extended arm was retired to. "Nope, you can't touch, just to see, you try to ask her", said the guy. So I nodded again and asked her, saying "Please show me your boobs." Without removing her eyes from me, the woman slowly put her hands on button-front, undid it one after another, and took off the black jacket in one stroke. I swallowed hard. Smooth, round, of two, and small. I had never seen such a beautiful, woman's boobs. Boobs.

"You win!!", the guy made a dive for me. A lot of men appeared and they gave a drum a bang like baang! I had won! Sound of the whistle. The guy was dancing by squirming his whole body. Everyone was dancing. I was dancing too. Gonzales was there. Poncho was also there. Melquiades, as well. Gonzales was dancing, naked. The moon appeared. Many-colored women appeared too. "Join us!" I said, and so the moon and women started dancing with us. That was so much fun. I could dance forever. I wanted that to go on forever.

A large-breasted woman in red skirt, dancing next to me, made her face close to me and said, "The seaside is wonderful". We went to the seaside hand in hand without stopping dancing. Waves were also dancing there, though it was too dark to see its form as the moon was dancing like crazy. Getting delightful, I tried to call everyone to come, and then the red woman said "Only between you and me, otherwise waves would be gone," and laughed. My heart started pounding. Waves, the woman and me kept dancing and rolling in laughter. We danced and held each other. We danced and kissed each other. Then the dancing woman said "Where did you come from?"

Where I came from, well, hmm, where I came from, well, oh, where I came from, where I came from, I can't remember. "What's your name?" "How old are you?" "Do you have a family?" "What do you do?" "What do you do on your day off?" "What's your favorite?" The woman's voice is echoing. My head got ache, my head got ache, and all around me got be all white.

Too bright. Hot. Blue. I'm dying of thirst. My body is soaking wet. Not wearing anything. Except underwear, socks and shoes. Hot. Dazziling. Where am I. There is a dilapidated small white cottage standing nearby. A tricycle, broken hula-hoop, toy ass with big eyes, and a red shovel are lying around. Nobody is here. Where has the guy gone. Oh. I need water.

"What are you doing?" Suddenly I found myself with a woman. A woman, wearing tatty clothes, with messy hair, and having many wrinkles on her face. She looked much different from those dancing women, but was a cute and short woman with round eyes. Hanging out the laundry, she peeked into my face and drew a sigh. "You haven't heard at all, have you?" Of what. I have been thirsty. When I thought so, the woman gave me a plastic bottle of water, and I drank it down in one gulp. Felt alive again.

"Well, who are you?" tried to ask her. "What?" she stopped her hands.
"Oh, well, where?"
"Where what."
"Which"
"Which?"
"Which is the truth?"
"Which is the truth? Hmm, what the heck, here, wear this."
The woman tossed me a T-shirt, which was still wet, from the laundry basket.

"You have heard the story of my dream, haven't you?"
"Your dream?"
"Yes, I'm asking, you don't remember the white building in Tampico? There, the warehouse like building on the street we have always passed by, the strange building we couldn't even figure out the entrance, we always stopped there and said, what is this? See? Remember?,,,Well, anyway. We were in front of the white building as always, saying what is this? as always, and suddenly we heard a voice from the upper of the building. It was a voice of Melquiades. Can't see his figure though. Melquiades said, 'Everyone, your attention please!' Everyone? Yes, there was a huge audience behind us when we turned around. Melquiades, together with everyone, screamed 'One! Nine! Two! Eight!', and then those numbers upside down appeared on the building's surface like One, Nine, Two, Eight. Wow! now I see, this building, I see, this building we have always passed by, now I see, you see? That building! Isn't that great?! Melquiades continued 'Time of the fun!', and then a man in a white face appeared from the fourth floor, the audience gave a scream of delight, he slowly jumped down from the fourth floor, and the 'blood and thunder' had begun. It was cheap acting, you know? We couldn't even see it, but everyone got so excited. Well, then, you know what, Poncho and Gonzales were in the scene. Oh, my, got, sure enough, we might have known, you know? We screamed them to stop. To Poncho and Gonzales. You can't do that in such a place! But it's too late. They couldn't here us anymore. 'Stop it!!' And they said 'Shut the fuck up!' You must know what Gonzales did getting teased by the audience. He teared off his own ear. Stop it!! He crunched his teared ear. We stopped seeing it. We had no choice but to leave them. Isn't that great!? All is the truth!"

"All is the truth?" The woman had finished hanging the laundry, and had a sip of water from her bottle. I'm getting thirsty again. When I thought so, she gave me her bottle of water saying "Want it?", and I drank it down in one gulp. Felt alive again. "Hey, where did you get the wound?" She touched my forehead. "You fell down again, didn't you?", she said. Saying "I didn't fell down", somehow I got sad, and I couldn't keep standing. I hold on to the woman, tears welled up in my eyes, and I cried. Cried and cried. The woman smoothed over my head for a while in silence, and then said "We must be tired."

"You, must, be, tireeeeeeeeed." A thin man with no face windingly appeared. There was no woman any longer.

2012年09月

05日

ポンチョ・サンチェスへ

まぶしい。熱い。青い。喉がカラカラだ。体がびしょびしょに濡れていた。服は着けていない。パンツは履いている。靴下、イエス。靴も履いていた。熱い。まぶしい。どこだここは。側に、ボロボロの白い小屋があった。三輪車、折れたフラフープ、目のでかいロバの人形、赤いスコップ、が転がっている。誰もいない。あいつも見えない。あいつはどこへ行ったのか。ああ。水が飲みたい。

あいつは僕に「行こう」と言った。あいつは手足が無いから、全身をくねらせて進んだ。僕と変わらない速さだった。あいつが頭を振ると、チリン、チリン、ポワポワポワ、と音がした。どこでも聴いたことのない、とても小さな高い音で、はじめは僕はその音がどこから聴こえてくるのかわからずに、聴く度に辺りをキョロキョロ見回すと、その度にあいつは、お腹のあたりを直角に曲げて笑った。

チリン、チリン、ポワポワポワ、チリン、ポ、ワワワワワワワワワワ。聴くと僕のまぶたは重たくなり、誰かに頭を優しく持ち上げられながら揺すられているような感じがした。あいつが鳴らしていることに気がついて、僕は何度かあいつに頭を振るよう頼んだけど、あいつが、いつ頭を振るのかは、あいつ自身もわかっていないみたいだった。あいつは全身が毛むくじゃらなのに、頭と顔には毛が一本もない。ワワワワワ、ポワ、チリン、チリン、チリン。

僕は眠った。ゴンザレスがボクシンググローブをつけて、飛び跳ねている。いいか、こう!いいか、こう!瞬間的に相手に反応して、打つ!はい、きて!ゴンザレスは僕に向かって構えた。はい、きて!僕が動こうとする。はいぃ!これ。僕が動こうとする。ほいぃ!これ、瞬時にだ、わかるか?僕は意味がわからなかった。それはカウンターのつもりか?と、全身白い服を着たゴンザレスよりも大きな男が言った。あ!やばい、時間だ!と言って、ゴンザレスは走り去った。なんだおまえ、びしょびしょだなあ。全身白の男が僕を見て言った。僕は頷くと、全身白の男は黙ってしばらく僕の体を見回して、僕は動けなくなった。全身白の男が不気味に笑いながら近づいてきた。

「オキロ!!ネエネエ、オッパイミタイ?」ってあいつは言ったんだ。僕は本当はオッパイよりも、水が飲みたかったけど、起き上がって頷いた。すると目の前に、黒いスーツに黒い帽子の女が現れた。こちらを見つめる大きな黒目と、柔らかそうな白い肌に、僕はきゅうと吸い込まれそうになった。女がこちらを見つめたまま、僕に向かってウインクをした。僕は女にそーっと近づいて、女の顔にゆっくり手を伸ばしていった。

「ダメ!!!!」ってあいつは叫んだ。ビクッとなって、僕の伸ばしかけた手は引っ込んだ。「触っちゃダメ、見るだけ、お願いしてみる」ってあいつ。だから僕はまた頷いて、女に言いました「おっぱい見せてください」。女は目を僕からそらさずに、ゆっくり前ボタンに手をかけて、ひとつづつ外していき、ふわっと一気に黒いジャケットを脱いだ。僕は唾を飲み込んだ。すべすべの、丸い、二つの、小さな。こんなにきれいな、女の人のおっぱいを、僕は見たことがない。おっぱい。

「オマエノカチ!!」ってあいつは僕に突進してきた。男たちがわらわら現れて、太鼓をドーン!と打った。僕は勝ったんだ!笛の音。あいつは全身をくねらせて踊っていた。みな踊っていた。僕も踊った。ゴンザレスもいた。ポンチョもいた。メルキアデスもいた。ゴンザレスは裸で踊っていた。月が出てきた。色とりどりの女たちも出てきた。「一緒に踊ろう!!」と言うと、月も女たちも踊った。とても楽しかった。いつまでも踊れた。ずっと続けばいいのに、と思いました。

隣で踊っていた、赤いスカートの、おっぱいの大きい女が、僕に顔を近づけてきて「海の近くがすてき」と言った。僕たちは踊ったまま手をつないで、海のそばまで進んだ。月は踊りに夢中だったので、暗くて姿は見えないが、そこでは波も踊っていた。嬉しくなって、僕はみんなを呼ぼうとすると、赤い女が「波が消えちゃうから、みんなには内緒」と言って笑った。心臓がドキドキした。僕と女と波は、踊りながら笑い転げた、踊りながら抱き合った、踊りながらキスをした。踊りながら女は言う「あなたはどこから来たの?」

僕はどこから、えーと、あれ、僕はどこから、えーと、あれ、僕はどこから、僕はどこから、思い出せないんだ。「名前はなんていうの?」「年はいくつ?」「家族はいますか?」「普段は何をしているの?」「休みの日は?」「好きなことは?」「好きなもの?」女の声が響く。僕は頭痛がしてきて、頭痛がしてきて、辺りが真っ白になった。

まぶしい。熱い。青い。喉がカラカラだ。体がびしょびしょに濡れていた。服は着けていない。パンツは履いている。靴下、イエス。靴も履いていた。熱い。まぶしい。どこだここは。側に、ボロボロの白い小屋があった。三輪車、折れたフラフープ、目のでかいロバの人形、赤いスコップ、が転がっている。誰もいない。あいつも見えない。あいつはどこへ行ったのか。ああ。水が飲みたい。

「なにやってんの?」気がつくと隣に女がいた。くたびれた服を来て、髪の毛はぼさぼさの、顔にはたくさんシワがある女。踊っていた女たちとは随分様子は違うが、目のくりんとして、背の低い、可愛らしい女だった。女は洗濯物を干しながら、僕の顔をのぞき来んで、ため息をついた。「ぜんぜん聞いてなかったでしょ?」何をだ。僕は喉が渇いた。と思ったら、女がペットボトルに入った水をくれたので、僕はそれを一気に飲んだ。生き返った。

「あの、誰ですか」僕は女に聞いてみる。「はい?」女は手を止めた。
「や、あの、どこですか」
「どこですかって?」
「どれですか」
「どれですか?」
「どれが本当ですか」
「どれが本当?うーーん、もういいや、はい、これ着い」
女は選択かごから洗いたての濡れたTシャツを僕に放りなげた。

「私の夢の話、聞いてた?」
「夢ですか」
「そう、だから、あなたタンピコの白いビル覚えていない?って。あの、いつも通っていた倉庫みたいな、入り口もなんだかよくわからないいつもがらんとした、いつも2人でこれなんだろね?って言ってた、ね、あるでしょ?、、いいわ、とにかくあの白いビルの前で、私たちはいつもみたいに、これなんだろね?って言ってるの、そしたら突然ビルの上から声がするのね。メルキアデスの声だわ。姿は見えない。メルキアデスは、では皆さんご注目!と言って、皆さん?そう、うしろを見たらすごい人。メルキアデスは皆さんと一緒に、せーのっ、いち!きゅう!にい!はち!って言うの、そしたら、いち、きゅう、にい、はち、って逆さまの数字がビルの壁に浮かんだ。わあ!そうか、このビル、そうか、いつも通っていたこのビル、そうかって。そうだったのよ、あのビル!すごいでしょ!メルキアデスは続けるの、お楽しみの時間!て、白い顔の男がビルの四階から現れて、皆さんは歓声、白い顔の男は4階からすうっと飛び降りて、乱闘シーンがはじまる、くっさい演技よ、見てられない、皆さんは大盛り上がり。そしたらその乱闘になんとポンチョとゴンザレスが混じってたわ。ああ、もう、やっぱり。でしょう?私たち2人で、どうかやめてって叫んだ、ポンチョとゴンザレスに。そんなところでやめて!でももう遅いわよ。もう全然聞こえてない。やめてー!!!って言っても、うっせえおまえら!!って。観客にヤジを飛ばされてゴンザレスがすることはわかるでしょ?切れてゴンザレス、自分の耳を引きちぎった。やめて!!って。ゴンザレス、引きちぎった耳を踏みつぶす。それ以上は見てないわ。もう離れるしかなかったじゃない。すごいよね!どれも本当!」

「どれも本当?」女は洗濯物を干し終えて、自分もペットボトルの水を一口飲んだ。僕はまた喉が渇いてきた。と思ったら「いる?」と女が自分のペットボトルもくれたので、ぼくは一気にそれを飲んだ。生き返った。「あ、あなたどうしたの?その傷?」と、女は僕のおでこに触れた。「また転んだね?」女が言った。「転んでない」僕は言うと、僕はなんだか悲しくなって、倒れそうになって、僕は女にしがみついて、涙が出てきたら、おいおい泣いた。女はずっと黙って僕の頭をさすっていて、それから「疲れたね」って言いました。

「つーかーれーるーよーなー」顔の無い細い男が、くねくねしながら現れた。女はもういなかった。

2012年09月

04日

Letter From A Distance

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2012年09月

03日

Dream Journal 1

大きな男の膝がカクンと折れたので、反射的に腕を差し出すと、男は青白い顔をして全ての力をワタシに預けて、ワタシはよろけた。男が「もうだめだ」と呟いて、ワタシの心臓は、びくんとなった。それは知らない男だったが、ワタシは「ああ、やっぱりな」と思った。男を両腕で支えながら顔をあげると、周りの人々はそれに気がついていない。いや、気がついていないのではない。明らかに彼らにこれは見えていてるが、見えているのに、見えていながら誰もなんの反応も示さないのだった。二秒ほど静止した。男が倒れたが。

「え?ちょっと!!!」と、彼らに向かってワタシは叫んだ。その声でこちらに注目する彼らの顔は、さっぱりきょとんとしている。ワタシの体はどんどん熱くなっていった。「ちょっとすいません!」ワタシはぐったりしている大きな男を引きずりながら、突っ立っている彼らの合間を進む。彼らはなかなか退けないし、大きな男は重かった。どん!と誰かにぶつかって、その誰かが「いてーな」と言った。男の声だった。

キヨスクの奥の壁に、赤い電話がかかっているのが見えたので、ワタシは近づいて「救急車を呼んでもらえますか」と、キヨスクの女の人に言う。キヨスクの女は、ワタシとぐったりした男を見て会釈した。女は電話には行かず、並んでいる客の対応をはじめた。「すいませんけど、急いでるんですが、はやく!」女は客の対応をしながら、再びこちらを向いて、何も言わない。奥から別の女が出てきて、キヨスクの女とコソコソと話した。それから2人並んで黙ってこちらを見ている。「救急車!!」奥から出てきた女が、ようやく壁の電話の受話器を上げた。

キヨスクから少し離れたスペースに座り、男を膝に寝かせて顔に手をあてた。「大丈夫?」穏やかな男の顔は青白く冷たく汗をかいている。「もう少しで来るから。もうちょっとだから。」男は目をつぶったまま頷いた。「どこか痛い?」男はめをつぶったまま首を横に振った。忙しなく行き交う人々は、もうこちらを見向きもしない。「あんなやつら、消えてしまえばいいよね。」とワタシは言った。「まあまあまあ。」と男は目をつぶったまま言った。本当に少しずつ、人々は消えていった。子どもが2人、追いかけっこをしながら目の前を横切ると、辺りには誰もいなくなった。

「うそでした!」倒れた男が、突然声をあげて、立ち上がる。「え、ちょっとやめてよ、うそなの!?」ワタシも立ち上がる。うそなの?なにが?どれが?あなたが?「うそなのがうそ!」と、男はまた倒れた。キヨスクの前はまた人だかりが出来ている。何人もの機動隊が、キヨスクの女と、もう1人の女と、話をしている。話は聞こえない。キヨスクの女がこちらを向いた。もう1人の女がワタシを指差した。1人の機動隊が、周りの人々を棒で倒しながら、ワタシの方に向かってきた。男を見る。男はいない。

2012年01月

22日

San Antonio 5

ワタシは、誰もいないプールサイドに座り、水に足をつけて、ちゃぽちゃぽと掻いている。さっきランドリーには、ずっと着ていた服や下着を入れて来た。プールから見えるキッチンでは、中年の男女が2人で食事をしている。話しているのは英語でもスペイン語でもなかった。

水が生温い。そうか夏には水は生温いのだ。汗をかいていた。そうだ夏には汗をかくではないか。飛んで来た虫が、プールに飛び込んでもがいた。ああ、夏には虫も生きるのだった。そのどれもが、ワタシの住む砂漠の暑い夏にはなかった。あの人、外を歩くなんてきちがいだって言ったけど。白い壁のところで会った車の男を思い出す。ここには虫も生きてるじゃないか。

そのおばさんは、ワタシの隣に座っていた男がトイレに立つと、バンバンバンとワタシの肩を叩いて言ったのだ。ちょっと!!あなた何でもかんでも答え過ぎよ。優しすぎる。大丈夫?あの男、怪しいわ。そして、怪しいわ。ものすごく、怪しいわ。話が大袈裟。わかる?いい人と悪い人がいるの。あなた、女は見極めなきゃだめ。本を持っている?持っていなかったら貸すわ。持っていたら読んで。本に集中しているふりをなさい。そして無視するのよ。いいわね、がんばって!!

ワタシはポカンとしてから、口をつぐんだ。確かにワタシは浮かれていた。その男との話がとても楽しかったから。確かにその前までの列車では、いいと思った人が2人きりになった途端に豹変し、かわすのに大変苦労したこともあった。ワタシは、それはわからなかった、と言って、ありがとう、と言って、そうします、と言って、男が戻って来ると、おばさんに見つめられながら、おばさんに言われた通りにした。話しかけられても、生返事をし、何を読んでるの?と聞かれても、答えなかった。男はワタシの豹変に首をかしげ、それからもう笑わずに、それからずっと窓の外を見ていた。ワタシはなんだか居心地が悪い、と思いながら、チラリとおばさんの方を見やると、それでいいのよ、というように、おばさんは深く2回頷いた。

男は降りる駅に着くと、ありがとう、気をつけて、とワタシに言った。ホームに男を見つけると、男は再会したおじいさんと抱き合って泣いていた。20年振りに会う、唯一の肉親の話を、楽しみに楽しみに楽しみにしている再会の話を、男はワタシにしていたのだった。おばさんが、正しいか正しくないかは、でもわからなかった。ただ次にそういう場面がきた時、ワタシはなんて言うかを考えて揺られていた。あり、がとう、気をつけ、ます。でも、見極め、は、自分、で、します。痛い目、には、ワタシ、が、あいます。

プールサイドに数人が入って来る。小太りの小さな、頭の黒毛の薄い、チョビ髭の濃いおじさんが、奇声をあげて、宙返りをしながらプールに飛び込んだ。ワタシの全身に水がかかる。ちょっと!!!ワタシはあわてて、足を水からあげて、数歩離れた。

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