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2011年07月

30日

Purple Disaster

もう全っっ然。送れないのだ。たったひとこと『東京だよ』のメールが送れない。ギリギリまで黙っていたワタシが悪いが、だってその時までどうなるかはわからなかったし、時間をつくれて会えるとは限らないのだし、そのためにその人が楽しみにでもそうでなくても、予定をあけて待っていては困るし、だから送らなかった。しかし絶対に、ワタシはどんな隙間をぬってでも、その人に会いに行こうとすることは知っていたのに。隙間に、今だ!と思って『東京だよ』と打とうとするのだが、それがどうしても打てない。そうこうしているうちに、その人は、ワタシが東京にいるとも知らず、もうすぐ用事を済ませて帰ってしまうだろうし、ワタシはその日の帰りの飛行機のチケットを、ワタシの分とワタシと一緒の仲間の分、これから手配しなければならなかった。

何度も再起動を繰り返していると、iPhoneのメール画面の様子が、どんどんおかしい。顔がでかく目のキラキラした猫がいる。猫の隣にある日本語入力のひらがなのキーは『と、な、か、お、し、き、n、!、?』と横に並んでいて、『と』をタッチしても、長押ししても、スライドしても、猫もキーも入力スペースも、ぴくりとも反応しない。しばらくして、ちらちらと画面が消えそうになった後『んん』と入力された。動いた。でも違う。全部の文字を順番にやってみる。な。違う。か。違う。お。違う。変換。違う。変換。違う。スペース。違う。『し』をタッチした時、また時間をおいて、今度は『とう』と入力された。それだ!「東京だよ」「東京だよ」ワタシは何度もつぶやきながら、次の『き』をタッチする。するとまた時間をおいて『とう』の後ろに『あ”/』とついた。

「打てないの!なんで!」とワタシが言うと、「なにが」と隣の人が言い、「東京だよ!東京だよ!と打ちたい!打てない!もう時間がない!」とワタシが言うと、隣の人は黙って自分の荷物を下ろし、荷物からパソコンを取り出してワタシのiPhoneに繋げた。パソコンの画面にも、顔がでかく目のキラキラした猫がいた。隣の人は、そのまま何も言わずにパソコンの画面に向かい、ワタシは何度も隣の人に「東京だよ!」「東京だよ!」と叫び続ける。iPhoneの時と同じようで、何度やってもキーはその都度でたらめに反応した。「もうわかった!コピペして!東京だよ!」打てなければ、コピー&ペーストをすれば良い。ところが何をどうしても、コピーもペーストもされなかったのだ。

その時、iPhoneがなにかを受信した。画面は崩れ、たくさんの画像が重なりチカチカと光ったが、受信した手書きの文字が現れた。文字は赤かった。『ぶあぁぁぁぁぁか!!!!』ワタシはiPhoneをパソコンから外し、なんとかその受信したものを開く。手描きの『ぶあぁぁぁぁぁか!!!!』の文字に、添付された写真が一面に現れた。その写真には、ワタシがさっきから『東京だよ』と送ろうとしている相手、その人が映っていた。写真のほとんどが、紫だった。やっぱり、ワタシはなにか大変な事をした、とワタシは思った。

写真の中で、青白い顔をしたその人は、紫色の吐瀉物にまみれて、バケツの上に倒れていた。やっぱり、ワタシはなにか大変な事をした、とワタシは思った。文字と写真を送ってきたのは、今その人と一緒にいるであろう人で、その人と、今その人と一緒にいるであろう人は、三軒茶屋にいることを、ワタシは知っていた。とにかく三軒茶屋に向かわなければ。ワタシは荷物の全部をそこに置いて、駅のホームに急いだ。

その駅のホームにいたのである。その人は、青白い顔をして、たくさんの人に身体を支えられ、震えていた。おそらく白かったであろうロング袖のTシャツは、薄紫色に染まって濡れていた。その人は、ワタシを見ると、一瞬驚いた顔をして少し笑った。その人は、少し笑ってから、支える周りの人を離れて、1人で歩いた。周りの人もワタシに気づき、驚く者もいれば、無反応の者もいた。「お仕事ですか」と、誰かがワタシに言った。「来てたんだけど、、メールを送ろうとして、、帰らなきゃ行けないから、、やっぱり紫が、、ごめんなさい」と、ワタシは口にしたかどうかわからない。その人の側に行き、写真が送られてきたから、と言ったのだ。写真を送ってきた人は、そのホームにはいなかった。その人は、はははと笑って、ワタシにその人の携帯を差しだした。そこには、その人が今まで一緒にいた、ワタシに写真を送ってきた人が映っており、赤い服を来て、サングラスをかけ、スーツケースの上に寝転がって、こちらを向いて舌を出していた。それを見て、はははとワタシも笑った。

その人と、周りの人が、ホームに着いた電車に乗ろうとしたので、ワタシは慌てて叫ぶ。「ちょっと!!ワタシの荷物!!全部持って来て!!1つ残らず!!全部!!」誰かが1人走って行って、小さな数人が、たくさんの荷物と共に走り戻った。彼らが抱える鞄からは、パソコンの線や、布切れがはみ出していた。彼らが引きずっているのは、抱える鞄なのか、彼らの足なのか、わかりにくかった。彼らがちゃんと、散らばっていた小さな部品の全部までを持って来たかどうか、ワタシはとても心配だったが、それらを確認する暇もなく「全部ね!!」とワタシは言って、みんなで電車に乗り込んだ。その様子を口を開けて見ていた誰かが「すっかりまるでAV女優だな」と言った。

車内は混んでいたが、その人は座れたようだ。ワタシはできるだけ、その人の側に立とうとしたが、乗り来る人々に押されて移動しなければならなかった。ワタシは、その人を見つめたまま、流れるままに移動した。その人も、青白い顔をして、こちらを見ていた。その人は、紫色に染まったシャツの胸元を掴んで扇いだ。よく見ると胸元には、見たことのあるカラフルな柄がプリントされている。その人は、赤い生地に黒い斑模様のパンツを履いていた。ふと気がつけば、ワタシは紫に白いドットのパジャマを着ているではないか。黒いブーツを履いていた。髪はボサボサで、化粧もしておらず、赤い縁のメガネをしていて、顔も洗っていなかった。一度だって、そんな格好を、その人に見せたことがない。ワタシは、その人に、言い訳をたくさんしたかった。その人にだけは、これら全ての経緯を、正確に説明したかった。ワタシは、流されて移動した。

ワタシは、流されて移動した。途中で何かに躓いた。足元を見ると、男性の足だ。その足をたどると、肌色の布が腰に巻かれており、上半身は裸、金色の髪も髭も長く、大きな目は見開かれていた。「ごめんなさい」と言おうとしたが、男性はワタシが躓いたことにも気がついていない様子で横たわっていたので、ワタシは何も言わずに足をまたいで、そのまま流されて移動した。男性に膝枕をしている女性は、派手な扇子を扇ぎ、その隣の女性と高い声で笑っている。ワタシの後にも何人かが、その男性の足に躓いたり、足を踏んだりしていたが、男性の様子は変わることがなかった。

ワタシは、流されて移動して、狭い空きスペースにたどり着いた。立てかけられていた誰かの大きな荷物に隠れて、その人を見た。その人は、青白くだらんと座ったまま、こちらを見ていた。メガネの縁が、荷物に当たってコツンといった。ワタシはあるだけの力を全部込めて、その人の方に向かって、大丈夫だよ、と言った。その人は、青白くだらんと座ったまま、それからもうこちらを見なかった。
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