2011年10月

18日

A Funeral Scene

Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていました。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。

Aさんが、声をあげて、泣いていた。Aさんが、崩れるように、泣いていた。Aさんが、崩れながら、泣いていた。Aさんが、正しながら、泣いていた。Aさんが、下を向いて、泣いていました。Aさんが、上を向いて、泣いていた。Aさんが、立ち上がって、泣いていた。

うえっ、うえっ、といって、ひいいいいい、といって、静かになっては、どっとまた、Aさんが、泣いた。

ある者は、すすった。ある者は、下を向いた。ある者は、手を合わせた。ある者は、目をおさえた。ある者は、ある者は。

わたしは、見ていた。わたしは、AさんとOさんを、見ていた。わたしは、下を向かなかった。わたしは、目を閉じなかった。わたしは、動かずに、わたしは、泣かなかった。

Nさんは、宇宙体験よりすごいかもしれない、と書いた。自分のときは、記憶がほとんど無いのよ、と書いた。茫然自失なのだ、と書いた。だからTさんは今、茫然自失状態だと思う、と書いた。わたしは、Tさんに何をも書かなかった。

わたしは、Aさんを見ました。

Mさんは、笑っていた。
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2011年10月

04日

What We Saw

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2011年10月

04日

The Lost Hometown

「ご自宅ですか?」「いいえ、ドライブ先なのです」「どの辺でしょうか?」「山の中でして」「お近くにわかりやすい、目立つ建物かなにかはありませんか?」「いいえ、それがまったく、ここは山の中なのです」「それは困りました、わかりやすく、どこか向かえる所を指定していただかないと」「それでは、住所がわかります」「住所がわかりますか?」「ただ、なにもない住所ですが」「なにもない住所?」「夕張市」「はい?」「南部青葉町」「あ、はい」「5-1-4」「5-1-4」「はい」「ええ、では、その住所の近くにいらっしゃる、ということですか?」「いいえ、その住所に、おります」「そうなのですか」「はい、その住所がまだあれば、その住所のそこに、おりますということですが」「あの。。」「はい」「あの、とにかく、では、その住所に向かわせます、ので、途中でわからなくなったり何かあれば、こちらからお電話さし上げます」「わかりました、すみません、お願いいたします」「1時間半から2時間ほどかかるかと思いますが」「わかりました、すみません、お願いいたします」

ワタシたちは、夕張市南部青葉町5-1-4に、いました。ただし、ここは、夕張市南部青葉町5-1-4、だろうか。今から鍵屋さんがたどり着ける、夕張市南部青葉町5-1-4、なのかはわからなかった。電話番号ですか。01235-5-2065。ああそうだ、伊藤さんちは、01235-2-0764です。おおおお。それが言えるようになれば、迷子になってももう大丈夫だね。って言って、ワタシたちは大層得意気でしたから。住所と電話番号と両親の名前を言う、たくさん練習をしました。ワタシとアイとマリとユキは、それを誰も聞き取れないほど早口に完璧に言えました。伊藤さんちのマリは、あれから鈴木さんになって、ハルトが生まれた。それでワタシは、その練習の成果を、今はじめて発揮したのです。そしたら、3万円かかる、と言われました。場合によっては、9万円かかる、と言われました。ええっ、たぶん3万円で大丈夫でしょう、とワタシは言いました。その場で、現金で、払っていただかないとなりませんが、大丈夫ですか、と言われました。大丈夫です、とワタシは言いました。いつもは千円札数枚もない時ばかりですが、その日はたまたま全財産が、財布に入っていたからです。それでも、もし9万円なら、とても払えなかったのです。

ワタシは張り切った調子で、運転しながら助手席の人に、一生懸命この辺りの説明をしてました。大きな木を指しては、ここがワタシの家ですよ。ここにびっしり長屋が、こう、ぶわあっと連なっています。電柱。メロン農家。風呂。スナック。青葉スーパーは、こなごなでしたが、それは朽ちたのではなく、もっとずっと前に火事で焼けこげたのです。それで、ここを左に曲がったら、よし、ではちょっと青葉グラウンドに行ってみます。ワタシはそこで自転車に乗れるようになった。と言って、川に沿って左に曲がると、車は、草に埋まってしまった。

そこで、車を止めて、助手席の人は、スケッチブックを持って、車から降りると、大きなスケッチブックは、小さくなった。グラウンドには、茶色いバックネットが立っていましたが、草が高すぎてそこにはたどりつけず、草が倒れている川沿いの小道を進みました。小道の右側の高い草のすぐ向こうには、大きな濁った川が流れていて、ワタシが出す普通の声は、ほとんどかき消されてしまい。会話が、説明が、だんだんなくなっていきました。左のグラウンド側は、背よりも高い全部菜の花で、少し見上げれば、ぎっしり黄色でした。すぐに助手席の人が、道に座り込んで黄色側を向いてスケッチをはじめたので、ワタシは1人で小道を進んでみることにします。小道の向こうには、ブランコやジムがあって、その向こうには、がまの穂池が、あるはずでした。

がまの穂のことを、ワタシたちは、ホットドックと呼んだ。ただホットドックは、なかなか手にできませんでした。池の中に生えているからね。運良く池の縁からホットドックに手が届いたとしても、ホットドックの茎は強くて、手ではとても切れません。切れるほど力を入れると、みいちゃんは、たちまち池に落ちてしまった。かえるのタマゴがびっしりと。たまに、おにいさんやおねえさんがホットドックを手に入れて持ち歩いているのを、いいなあと思って眺めていたばかりです。ある日ついにホットドックを譲ってもらえると、それが嬉しくて、嬉しくて、茶色の穂のところをいつまでも大事にしていたら、ホットドックは萎んで、ところどころ黒く汚くなって、中から白い綿がでてきて、ぐちゃぐちゃになったので、鼻をつまんで、捨てた。家の周りの道には、よく、白くバラバラになったホットドックが散らされていたもので、それからホットドックを欲しいとは、思わなくなりました。

オニヤンマとかギンヤンマとかナニヤンマとかがたくさんいて、虫捕り網を振り回しては、普通のトンボを、何十匹も閉じ込めるのです。そんな虫捕り技も、みいちゃんに教えてもらいました。みいちゃんの名前は、美沙。夕方になって、網の口を上にすると、一匹、一匹と、ゆっくり普通のトンボは出て行きました。網の底の方に長い間押し込められていたトンボは、とても弱っていてなかなか出て行かないのですが、もうワタシもお風呂に行かなければならないので、ゆっくり手でつかんで、ジャンプと同時に、わっと投げた。トンボは飛びましたか。

それでワタシは1人で小道を進むと、がまの穂池は、なかった。なかったが、草をかき分けて、ふっと出た、池は、水を無くして、ぽっかり、空いた、砂利の、小川の、光の、山に囲まれた、そこは空洞になっていました。空が突然、丸く抜けた。見つけた、と声をあげて、ワタシは夢中でその空間の砂利に1歩踏み込むと、地面にいた大きな灰色の1羽の鳥が、バサバサッと飛び立ちました。その鳥だけでなく、たくさんの、なにか大きなものや小さなものたちが、がさごそと、音を立てずに散っていった。だれの住処か、庭か、休憩所か。

おじゃまします、とも言わないで、ここに居たことがあるワタシは、ワタシはここに居たことがあるのよ、知っているでしょう、ただいま、と進んだのです。山の草木の麓には、ジンギスカンコーナーの注意書き看板が、白く覗いていました。その隣には東屋の欠片もあった。木々の合間に、背の低い電柱も立っていた。赤い石をつかむと、たちまちポロポロと崩れ、お赤飯になりました。これをイタドリの葉っぱで包んで、並べるんですよ。ワタシは、おねえさん役になるのが、得意気で。大人たちには絶対内緒で、川に続く土管に懐中電灯を持って潜り込み、ユキが途中で怖くて動けなくなったので、とてもドキドキして叫んだのです。水が来るー!タケちゃんが川で溺れて死んだ。イサミくんの声がして、キャンプだほい、キャンプだほい、キャンプだほいほいほい。すぐに、ピチチと鳴って、水面がキラキラ光って、消えました。いつもあった白い夕張岳の方を見れば、草が高くて見えません。錆びたブランコも、ほとんどすっかり草に隠されていました。

うぉーーーい!!と、ここでかつてそうしていたように、ワタシは声を最大に張り上げて、小道でスケッチをしている人を呼ぼうとします。声は、プスプスとなって、川は、ゴウゴウとなって、全くどこにも届かなかった。ついには、走り出していました。というよりは、跳んでいた。その人に向かって跳びました。きゃっ、はっ、はっ、たっ、すっ、けっ、てくれっ、と跳びました。その人は、座り込んでいた場所に、立ち上がって、顔をしかめて、まとわりつく蚊を追い払っていた。スケッチブックは、ぶわっと緑色と黄色と赤でした。ワタシは、スケッチブックを見てから、息を整えて、ゆっくり静かに近づいて、あっちがなんかすごいのだけど、めんどくさいですか?と聞いてみます。へえ行ってみるか、と、今度は2人で行きました。

今度は2人で、草をわけて、がまの穂池の広場に行くと、タケちゃんもイサミくんも、もうすっかりいなかった。へえすごいな、と言いながら、その人は身体の全部を使って、はっきりと、おじゃまします、と言ったので、ワタシは驚いて、今度は、その人ばかりを見て、その人の真似をしました。その人は、ゆっくり歩きました。ゆっくり歩いて、目をギラギラさせて、時々手をかざして、またスケッチブックを広げた。ワタシもゆっくり、目をギラギラさせて、光や緑やその人を、撮りました。長い間、空気が止まって、音が消えました。すべての色とすべての形にまみれた。

突然、キィ!!と、山から音。キィ!!と続けて何度もして、ガサガサッと鳴りました。さっきから、たくさんの何かはいるけれど、音をたてて、何か、いる。それを受けて突然、あー!!!!と、その人が言ったのです。それを受けて少しの静寂の後、キィ!!とまた山からしました。あー!!!!と、その人が言いました。キィ!!と山から言いました。あー!!!!と言いました。キィ!!と言いました。うあーー!!!!と言いました。キィ!!何を話しているのか、ワタシにはさっぱりわからなかった。わからなかったし、先ほどワタシの最大の声が、すっかりかき消されてしまってから、ワタシには声で話ができるとは思えませんでした。その轟く2つの声に、ワタシは目を開いて、声を出さずに笑いました。鹿だ!と言えば、目と鼻の先に、鹿か?と言えば、白いお尻を見せて、それは跳ねて登っていった。緑に隠れたたくさんのなにかのうち、その人と話したその姿を、ワタシたちは目で見ました。

ああそれで、その帰り道ですから、車の鍵がないことに気がついたのは。車を降りた後すぐ、ワタシは確かに、こんなところで鍵をなくしたら大変だ、と、思い、緊張しながらしっかりと鞄にしまい込んだ上に、そのあと何度か鍵のあることを確認をしていたのです。ああそれで、やっぱりどうしても、どうやらそれでも落としたのだということがわかってから、何時間も動いた所を往復して、鍵を探しました。その人も探しました。探しながら2人とも、鍵はここに絶対にあると知っていたし、鍵はもう絶対にないと思いました。なぜならこんなに周りの色に形に音に感触に、ワタシたちは小さくさせられてしまうので、無理矢理に顔を地面に近づけて、一生懸命探している形、になりました。形になって、何時間も、探しませんでした。3万円、もしくは9万円を、探せ、と言いました。しかしその気配の中に、3万円も9万円も、まるで意味がなかった。夕張市南部青葉町5-1-4も、01235-5-2065も、どこにもありませんでした。

鍵屋さんに言われた時間を過ぎて、だんだん暗くなってくると、草木は一層高く、川音は一層大きかった。もう足元の見えず、車から少しでも離れることは、とてもできなくなりました。人の気配はなく、遠くの一本の古い街灯に、薄暗いオレンジの灯がぼんやりつくと、すぐにその周りには、虫がうじゃっと群がって、黒くなった。人の目と耳と鼻と皮膚はすっかり疲れ、2人は呆然として、髪の毛を逆立てたまま、少しだけ息をついてから、上を向いた。もう少し。

「あ、カシオペア座」と
「カシオペア座、だ」が、重なって聞こえました。

ハチ切った!なにそれ!うげー!
失礼した!じゃあなっ!逃ーげろー!!!!!!

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