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2012年09月

11日

Dream Journal 2

みんながワタシを見ている。特にダニーの目ときたら。少し中央に寄った、ただでさえ大きくて丸くい目を、それはそれは大きくまんまるに開けて、こぼれ落ちそうに、それはそれは真剣な表情で、時々深く頷きながら。なんだその顔は。おまえは目か。いつもならワタシは吹き出して、それから気がついてダニーも笑うのですが、今は心の中で吹き出していても、それは誰にも気がつかれずに、だからダニーもその顔をやめないのです。ひ、ひゃ、ひゃ。

ダニーの目の先、ワタシのお腹は破裂しそうにパンパンで、ときどき裂かれるような痛みがワタシの体中にめぐり、ワタシは立っていることはもちろんできず、ぶるぶると震え、汗は流れ、鼻水は流れ、手を伸ばしてつかめるものなら、なんでもつかんだ。頭上のパイプは、もうぐにゃぐにゃに曲がってしまっている。ごめん。と言いたくても、もう声は出ない。息も止まっているが、時々誰かに叩かれて、大きく吐いて吸い込んだ。あとで謝ろう。あとでダニーの目のことも笑ってやる。早く終わってくれないか。

キャシーが時々、汗を拭いてくれた。パトリックは、団扇を持って仰いでいたが、それは遠くてワタシにまでちっとも届かず、だからパトリックは、届く場所を探しては、人々を縫っておろおろしているので、「邪魔」と、いつものようにキャシーに叩かれていた。パトリックはいつも、何をしても、キャシーだけでなく、いろいろな女の人に「何やってんの?」と、怒られる。怒られないように動こうとするほどに、怒られる。じゃあいっそのこと、と、何もしなくても、何もしないと怒られる。う、ぷ、ぷ。

最大の痛み。これは大きい。これかしら。もう周りは見えなかった。そこは真っ暗で、お腹にある痛みだけが、世界のすべてになった。宇宙の中に、お腹だけが、でっかく、でっかく、でっかく、でっかく。ああこれか。それはゆうっくりと回り、ゆっくりと、ゆっくりと、裂けていった。そうしてお腹は、宇宙と繋がりました。

気がつくと、まぶしくて、部屋の中の人々は小声でがやがや呟いていた。部屋の外にもたくさんの人がいるようで、時々、生まれた、生まれた、と声がする。ダニーもキャシーもパトリックも、もう誰もこちらを見ていない。ワタシはようやく一人で体を起こして、人々の見る先に目をやると、そこには、吊るされていた。あんなに大きなパンパンのお腹から、あんなに痛みを伴って出てきた、ほんのこぶし大の、毛のない、ピンク色の、湯気のたった、両手と両足がそれぞれに長さの違う、頭の大きい、顔のつぶれた、それは小さな小さな、猫だった。わあ、なんて醜いの。

ねえ、もしもし?どうしてあなたたちはここにいるのですか?それはワタシのお腹から出てきた猫です。そう、ワタシの猫です。ということはロバートの猫でもあります。ワタシははやくその猫を抱きたい。ものすごく抱きたい。なんだこの人々は。なんだその目は。見ないでくれ。帰ってくれ。人々は、その醜さにうろたえ、立ちすくみ、かといって嫌悪も露にせず、どう評価するべきか錯誤し、目を大きくあけ、口角をあげながら、互いに顔を見合わせ、素晴らしい、と言ってもいいか、これはひどい、と言ってもいいか、確認するように、小刻みに頷きあっていた。

ワタシは気分が悪くなり、猫には近づきもせず目もくれず、何事もなかったようにベッドを居りて、部屋を出る。部屋の外の人々は、どうやら猫を見てもいないようで、ひたすらに大声で喜び合っていた。おめでとう!おめでとう!囲まれて、おめでとう、と言われているのはエイミーだ。エイミーは、ありがとう!ありがとうございます!と、とても嬉しそうに笑っていた。エイミーは、ただ1人、部屋から出てきたワタシに気がついて「あ、あの子です、産んだのは!」と言った。誰も聞いていなかった。

エイミーが、人々から離れてワタシの方に近づいて来る。「おつかれさま」ワタシの肩を叩いて笑った。「あの、ロバートは」とワタシはエイミーに聞く。「ちょっとわからない、この人々でしょ?きっと出てこないわ」と、エイミーは言った。ワタシは階段に腰掛けた。エイミーもワタシの隣に座った。声が出せない。疲れていた。「あ、、、」ワタシはずっとエイミーに言わなければならないことがあったのだが、それをちっとも思い出せない。エイミーはワタシの顔を覗き込み、きょとんとした顔で、それから頷いて、またワタシの肩を叩いて笑った。

人々は相変わらず、がやがやと、そこら中にいた。いつのまにやら人々は、ドレスアップをして、シャンパングラスを手にしている。踊っている人々や、歌っている人々、床を拭いているタキシードのウェイター。ワタシは、汗をかいたボロきれをまとったままだ。ウェイターがワタシに近づいてきて「大丈夫ですか?」とシャンパングラスを差し出した。ワタシは一瞬に微笑んで、通り過ぎる。ワタシの猫。猫はどこかしら。もう誰も、ワタシの猫の話をしていなかった。

ベランダにロバートが見えた。ワタシは人々を縫って近づく。するとロバートはワタシの猫を抱いていたのです。ワタシの猫!両腕で猫を抱えて顔を近づけながら、ロバートは泣いていた。ワタシもあんな風に早く抱きたい。人々を縫って近づく。エイミーがロバートの隣にいた。エイミーも泣いていた。エイミーはロバートの背中をさすり、それからワタシの猫に顔を近づけて、ロバートと顔を見合わせて笑っていた。ワタシもあんな風に早く抱きたい。人々に遮られて近づけない。するとエイミーがワタシに気がついて、優しく手招きをしました。ロバートも気がついて、笑いながらワタシにその猫を差し出した。

ああ!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシの猫!ワタシはワタシの猫を抱いた。ロバートとエイミーは、また人々に気がつかれて、囲まれていた。ワタシの猫は、しわくちゃにあくびをして、口をむにゃむにゃさせ、「にゃあ」と鳴きました。

メールが届く。エイミーからだ。ワタシの猫の写真も添付されている。
「みなさまへ。ご報告があります。ロバートに子どもが生まれました。かわいいかわいい男の子です。私たちは『ココト』と命名しました。すっごく素敵な名前がついたと思います。その節は、ほんとうに皆様、たくさんありがとうございました。これからココトを、大切に大切に、育てていきます。これからも応援よろしくお願いいたします。エイミー」

ワタシの猫。男の子。ココト。すっごく素敵な名前だわ。そうじゃない。そうじゃない。すっごく素敵な名前。そうじゃない。ワタシはどうして自分が震えているのかわからずに、エイミーに「すっごくすてきな名前だわ、なんだかおかしいわ、震えます」返信すると、エイミーからは返事がなかったので、すぐにロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!なんだかおかしいわ!」
RO「どうしたの」
ME「ワタシの猫かしら!」
RO「そうだよ、キミの猫だよ」
ME「そうよね、そう!」
RO「どうしたの、名前が気に入らない?」
ME「すっごくすっごくいい名前!」
RO「でしょ、すっごく考えた、エイミーも気に入ってる」
ME「ワタシも、ちょうど、そうつけたいと思ってた!」
RO「そうだと思った」
ME「そうなの!?」
RO「もちろん」
ME「ココトは元気!?」
RO「元気だよ」
ME「あのね、ココトはどうしてここにいないのかしら!?」
RO「わかるだろう、仕方がないね」
ME「わかるだろう、仕方がないね!?」
RO「キミの、ココトだ、何よりも大切にするから、大丈夫」
ME「ありがとう!本当にありがとう!」

それからワタシは毎日からだが震えはじめた。お手伝いのロッテンマイヤさんは、頻繁にワタシの部屋を訪ねてくるようになった。ワタシは子どもの頃から、ロッテンマイヤさんが大好きだ。ロッテンマイヤさんに、こんな姿を見られるわけにはいかなかった。ワタシは、ロッテンマイヤさんに、もう部屋には来ないようにお願いし、からだが震えはじめると、毎日ロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!なんだかおかしいわ!」
RO「、、あのね、もういいよ」
ME「なにがいいのかしら!」
RO「、、キミの電話だ」
ME「そうよね、そう!」
RO「、、ココトは元気だよ」
ME「よかった!ありがとう!」
RO「もう電話しないでくれる、大変なんだ」
ME「でもワタシは震えるの!」
RO「狂いそうだ!!」
ME「狂いそうだ!?」
RO「もうやめてくれ!!」
ME「ロバート大丈夫!?あなた今どこにいるの!?」
RO「外だよ」
ME「ココトはお家かしら!?」
RO「ああ」
ME「エイミーが見てくれているのかしら!?」
RO「エイミーも忙しいんだ、いないよ」
ME「なんてこと!今すぐ帰って!ミルクをあげて!」

ロッテンマイヤさんと外に出た。パトリックが運転する馬車の荷台に、ダニーとキャシーとロッテンマイヤさんと4人で乗る。いけない。ワタシのからだがまた震えはじめた。ワタシは外を見て、みなに気がつかれないように、気がつかれないように。外はいつも通り、つまらない四角い暗い色の家々が、延々と並んでいる。ワタシ以外の3人がしていた話は何も聞こえてなかったが、それはロッテンマイヤさんが「それは仕方がないですね」と言い、ダニーが目を大きく丸くして「そそそ、仕方ない、仕方ない」と答え、みんなが笑った瞬間でした。

何かが、ものすごく熱い何かが、ワタシの足下から、すごいスピードで頭のてっぺんまでのぼり、ワタシの鼻にはシワが寄り、ワタシの口は大きく開き、ワタシの右腕は、思いっきり宙を横切った。キャシーが悲鳴をあげた。ロッテンマイヤさんの額に、赤い血が浮き出たと思ったら、それはたらたらと流れはじめたのです。ダニーが目を丸くしたまま、自分の服を脱いで、ロッテンマイヤさんの額に当てる。「あらあら、大丈夫ですよ」ロッテンマイヤさんは言った。血は止まらなかった。どうしよう、何をした、ワタシはロッテンマイヤさんになんてことをした。ワタシはロバートに電話をかけた。

ME「ロバート!これはあなたのせいよ!」
RO「いい加減にしろ、なにがだよ!」
ME「ロッテンマイヤさんまで傷つけたわ!ワタシがね!どうするの!!」
RO「知るか、きちがい!!」

血だらけのロッテンマイヤさんが、笑っていた。「もう少しですよ」と、ワタシに言った。「あの、なにがかしら」と、ワタシは答えた。「あら、いやだ、私はあなたに肝心なことを伝えていなかったから、いやだ、あら、聞いていないわね、いやだ、あら、もう、本当にごめんなさい、ロバートさんはココトさんと、まあ、いやだ、ロバートさんはココトさんと、今こちらに向かっているんですよ」と、ロッテンマイヤさん。

ロバートが立っていた。両手をジャケットのポケットに突っ込んで、こちらを見ている。向こうから光が射していて、顔はよく見えない。キャシーが、わあ!と言った。ロバートの足下から、見知らぬ男の子がおぼつかない足取りで走り出てきた。肌は透き通るように白く、栗毛の、丸い目、真っ赤な唇とほっぺ。フードの付いた赤いダウンジャケットを着て、濃いブルージーンズに、真っ黒のスニーカーを履いている。男の子は、そのまま真っすぐにしゃがんでいたワタシのところに来ると、ゆっくり手を伸ばしてワタシの顔に触れた。ワタシの顔はびしょびしょに濡れていた。濡れた顔を触りながら男の子は、けけけけけけけ、と笑った。

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