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2012年01月

03日

Force Majeure

もう数時間も、母は無言でピアノを弾き続けてエンドレス。その後ろで、やっぱり無言でギターを合わせようとし続けている父は、ときどき私を呼びつけて、後ろ髪を触るのをやめろ、と言う。言われる度に、あ、と言ってやめるが、次に私の手が私の頭の後ろにある時はまったく無意識なので、何度も何度も繰り返し言われる。どれ、それがどれだけかっこ悪いか、不愉快か、お父さんがやってやろう。と言って、しつこくしつこく、彼は自分の後ろ頭を触りはじめた。トイレに行っては触り、水を飲んでは触り、煙草を吸っては触り、ギターを抱えては触り、とことんやった後、憎々しそうに、どうだ、と聞くから、いいと思う、と答える。母は、ここに人がいないように弾いている。父は、じゃあ今晩もいい音を聞かせてもらってありがとうございます、と言って消えたので、たぶん寝たのだろう。そこからさらに音は続いて数時間が経った。

突然難しい顔をして携帯を睨むので、見えないのか、と聞いたら、長野で遭難者四人、と、たどたどしく読み上げた。救助のヘリも強風で引き返した。それニュース?今日?死んだな。え?低体温症だ。

昨日までも山に入っていたその父に、遭難することはないのかどうか聞いたら、なにを聞くのかと言わんばかりに、ない、と言う。沢をたどればいつか海だろう。北海道なんかでは、ない。大陸なら別だ。車が落ちたりしたじゃない?車?ああ。あれは、いくら真っすぐ道を走ってようが、雪がずり落ちて崖から落ちたのだから、不可抗力だ。父は、まるで不可抗力ならなんだって問題ないみたいにして、不可抗力、という言葉をよく使うのだ。一緒に行ってみないか、ともよく言われるが、雪山で車を落としたって、たった1人であがってくるような人には、とてもついて行きたくない。殺されるよ。あるいは、殺してしまいます。

2011年10月

18日

A Funeral Scene

Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていました。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。Aさんが、泣いていた。

Aさんが、声をあげて、泣いていた。Aさんが、崩れるように、泣いていた。Aさんが、崩れながら、泣いていた。Aさんが、正しながら、泣いていた。Aさんが、下を向いて、泣いていました。Aさんが、上を向いて、泣いていた。Aさんが、立ち上がって、泣いていた。

うえっ、うえっ、といって、ひいいいいい、といって、静かになっては、どっとまた、Aさんが、泣いた。

ある者は、すすった。ある者は、下を向いた。ある者は、手を合わせた。ある者は、目をおさえた。ある者は、ある者は。

わたしは、見ていた。わたしは、AさんとOさんを、見ていた。わたしは、下を向かなかった。わたしは、目を閉じなかった。わたしは、動かずに、わたしは、泣かなかった。

Nさんは、宇宙体験よりすごいかもしれない、と書いた。自分のときは、記憶がほとんど無いのよ、と書いた。茫然自失なのだ、と書いた。だからTさんは今、茫然自失状態だと思う、と書いた。わたしは、Tさんに何をも書かなかった。

わたしは、Aさんを見ました。

Mさんは、笑っていた。

2011年10月

04日

What We Saw

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2011年10月

04日

The Lost Hometown

「ご自宅ですか?」「いいえ、ドライブ先なのです」「どの辺でしょうか?」「山の中でして」「お近くにわかりやすい、目立つ建物かなにかはありませんか?」「いいえ、それがまったく、ここは山の中なのです」「それは困りました、わかりやすく、どこか向かえる所を指定していただかないと」「それでは、住所がわかります」「住所がわかりますか?」「ただ、なにもない住所ですが」「なにもない住所?」「夕張市」「はい?」「南部青葉町」「あ、はい」「5-1-4」「5-1-4」「はい」「ええ、では、その住所の近くにいらっしゃる、ということですか?」「いいえ、その住所に、おります」「そうなのですか」「はい、その住所がまだあれば、その住所のそこに、おりますということですが」「あの。。」「はい」「あの、とにかく、では、その住所に向かわせます、ので、途中でわからなくなったり何かあれば、こちらからお電話さし上げます」「わかりました、すみません、お願いいたします」「1時間半から2時間ほどかかるかと思いますが」「わかりました、すみません、お願いいたします」

ワタシたちは、夕張市南部青葉町5-1-4に、いました。ただし、ここは、夕張市南部青葉町5-1-4、だろうか。今から鍵屋さんがたどり着ける、夕張市南部青葉町5-1-4、なのかはわからなかった。電話番号ですか。01235-5-2065。ああそうだ、伊藤さんちは、01235-2-0764です。おおおお。それが言えるようになれば、迷子になってももう大丈夫だね。って言って、ワタシたちは大層得意気でしたから。住所と電話番号と両親の名前を言う、たくさん練習をしました。ワタシとアイとマリとユキは、それを誰も聞き取れないほど早口に完璧に言えました。伊藤さんちのマリは、あれから鈴木さんになって、ハルトが生まれた。それでワタシは、その練習の成果を、今はじめて発揮したのです。そしたら、3万円かかる、と言われました。場合によっては、9万円かかる、と言われました。ええっ、たぶん3万円で大丈夫でしょう、とワタシは言いました。その場で、現金で、払っていただかないとなりませんが、大丈夫ですか、と言われました。大丈夫です、とワタシは言いました。いつもは千円札数枚もない時ばかりですが、その日はたまたま全財産が、財布に入っていたからです。それでも、もし9万円なら、とても払えなかったのです。

ワタシは張り切った調子で、運転しながら助手席の人に、一生懸命この辺りの説明をしてました。大きな木を指しては、ここがワタシの家ですよ。ここにびっしり長屋が、こう、ぶわあっと連なっています。電柱。メロン農家。風呂。スナック。青葉スーパーは、こなごなでしたが、それは朽ちたのではなく、もっとずっと前に火事で焼けこげたのです。それで、ここを左に曲がったら、よし、ではちょっと青葉グラウンドに行ってみます。ワタシはそこで自転車に乗れるようになった。と言って、川に沿って左に曲がると、車は、草に埋まってしまった。

そこで、車を止めて、助手席の人は、スケッチブックを持って、車から降りると、大きなスケッチブックは、小さくなった。グラウンドには、茶色いバックネットが立っていましたが、草が高すぎてそこにはたどりつけず、草が倒れている川沿いの小道を進みました。小道の右側の高い草のすぐ向こうには、大きな濁った川が流れていて、ワタシが出す普通の声は、ほとんどかき消されてしまい。会話が、説明が、だんだんなくなっていきました。左のグラウンド側は、背よりも高い全部菜の花で、少し見上げれば、ぎっしり黄色でした。すぐに助手席の人が、道に座り込んで黄色側を向いてスケッチをはじめたので、ワタシは1人で小道を進んでみることにします。小道の向こうには、ブランコやジムがあって、その向こうには、がまの穂池が、あるはずでした。

がまの穂のことを、ワタシたちは、ホットドックと呼んだ。ただホットドックは、なかなか手にできませんでした。池の中に生えているからね。運良く池の縁からホットドックに手が届いたとしても、ホットドックの茎は強くて、手ではとても切れません。切れるほど力を入れると、みいちゃんは、たちまち池に落ちてしまった。かえるのタマゴがびっしりと。たまに、おにいさんやおねえさんがホットドックを手に入れて持ち歩いているのを、いいなあと思って眺めていたばかりです。ある日ついにホットドックを譲ってもらえると、それが嬉しくて、嬉しくて、茶色の穂のところをいつまでも大事にしていたら、ホットドックは萎んで、ところどころ黒く汚くなって、中から白い綿がでてきて、ぐちゃぐちゃになったので、鼻をつまんで、捨てた。家の周りの道には、よく、白くバラバラになったホットドックが散らされていたもので、それからホットドックを欲しいとは、思わなくなりました。

オニヤンマとかギンヤンマとかナニヤンマとかがたくさんいて、虫捕り網を振り回しては、普通のトンボを、何十匹も閉じ込めるのです。そんな虫捕り技も、みいちゃんに教えてもらいました。みいちゃんの名前は、美沙。夕方になって、網の口を上にすると、一匹、一匹と、ゆっくり普通のトンボは出て行きました。網の底の方に長い間押し込められていたトンボは、とても弱っていてなかなか出て行かないのですが、もうワタシもお風呂に行かなければならないので、ゆっくり手でつかんで、ジャンプと同時に、わっと投げた。トンボは飛びましたか。

それでワタシは1人で小道を進むと、がまの穂池は、なかった。なかったが、草をかき分けて、ふっと出た、池は、水を無くして、ぽっかり、空いた、砂利の、小川の、光の、山に囲まれた、そこは空洞になっていました。空が突然、丸く抜けた。見つけた、と声をあげて、ワタシは夢中でその空間の砂利に1歩踏み込むと、地面にいた大きな灰色の1羽の鳥が、バサバサッと飛び立ちました。その鳥だけでなく、たくさんの、なにか大きなものや小さなものたちが、がさごそと、音を立てずに散っていった。だれの住処か、庭か、休憩所か。

おじゃまします、とも言わないで、ここに居たことがあるワタシは、ワタシはここに居たことがあるのよ、知っているでしょう、ただいま、と進んだのです。山の草木の麓には、ジンギスカンコーナーの注意書き看板が、白く覗いていました。その隣には東屋の欠片もあった。木々の合間に、背の低い電柱も立っていた。赤い石をつかむと、たちまちポロポロと崩れ、お赤飯になりました。これをイタドリの葉っぱで包んで、並べるんですよ。ワタシは、おねえさん役になるのが、得意気で。大人たちには絶対内緒で、川に続く土管に懐中電灯を持って潜り込み、ユキが途中で怖くて動けなくなったので、とてもドキドキして叫んだのです。水が来るー!タケちゃんが川で溺れて死んだ。イサミくんの声がして、キャンプだほい、キャンプだほい、キャンプだほいほいほい。すぐに、ピチチと鳴って、水面がキラキラ光って、消えました。いつもあった白い夕張岳の方を見れば、草が高くて見えません。錆びたブランコも、ほとんどすっかり草に隠されていました。

うぉーーーい!!と、ここでかつてそうしていたように、ワタシは声を最大に張り上げて、小道でスケッチをしている人を呼ぼうとします。声は、プスプスとなって、川は、ゴウゴウとなって、全くどこにも届かなかった。ついには、走り出していました。というよりは、跳んでいた。その人に向かって跳びました。きゃっ、はっ、はっ、たっ、すっ、けっ、てくれっ、と跳びました。その人は、座り込んでいた場所に、立ち上がって、顔をしかめて、まとわりつく蚊を追い払っていた。スケッチブックは、ぶわっと緑色と黄色と赤でした。ワタシは、スケッチブックを見てから、息を整えて、ゆっくり静かに近づいて、あっちがなんかすごいのだけど、めんどくさいですか?と聞いてみます。へえ行ってみるか、と、今度は2人で行きました。

今度は2人で、草をわけて、がまの穂池の広場に行くと、タケちゃんもイサミくんも、もうすっかりいなかった。へえすごいな、と言いながら、その人は身体の全部を使って、はっきりと、おじゃまします、と言ったので、ワタシは驚いて、今度は、その人ばかりを見て、その人の真似をしました。その人は、ゆっくり歩きました。ゆっくり歩いて、目をギラギラさせて、時々手をかざして、またスケッチブックを広げた。ワタシもゆっくり、目をギラギラさせて、光や緑やその人を、撮りました。長い間、空気が止まって、音が消えました。すべての色とすべての形にまみれた。

突然、キィ!!と、山から音。キィ!!と続けて何度もして、ガサガサッと鳴りました。さっきから、たくさんの何かはいるけれど、音をたてて、何か、いる。それを受けて突然、あー!!!!と、その人が言ったのです。それを受けて少しの静寂の後、キィ!!とまた山からしました。あー!!!!と、その人が言いました。キィ!!と山から言いました。あー!!!!と言いました。キィ!!と言いました。うあーー!!!!と言いました。キィ!!何を話しているのか、ワタシにはさっぱりわからなかった。わからなかったし、先ほどワタシの最大の声が、すっかりかき消されてしまってから、ワタシには声で話ができるとは思えませんでした。その轟く2つの声に、ワタシは目を開いて、声を出さずに笑いました。鹿だ!と言えば、目と鼻の先に、鹿か?と言えば、白いお尻を見せて、それは跳ねて登っていった。緑に隠れたたくさんのなにかのうち、その人と話したその姿を、ワタシたちは目で見ました。

ああそれで、その帰り道ですから、車の鍵がないことに気がついたのは。車を降りた後すぐ、ワタシは確かに、こんなところで鍵をなくしたら大変だ、と、思い、緊張しながらしっかりと鞄にしまい込んだ上に、そのあと何度か鍵のあることを確認をしていたのです。ああそれで、やっぱりどうしても、どうやらそれでも落としたのだということがわかってから、何時間も動いた所を往復して、鍵を探しました。その人も探しました。探しながら2人とも、鍵はここに絶対にあると知っていたし、鍵はもう絶対にないと思いました。なぜならこんなに周りの色に形に音に感触に、ワタシたちは小さくさせられてしまうので、無理矢理に顔を地面に近づけて、一生懸命探している形、になりました。形になって、何時間も、探しませんでした。3万円、もしくは9万円を、探せ、と言いました。しかしその気配の中に、3万円も9万円も、まるで意味がなかった。夕張市南部青葉町5-1-4も、01235-5-2065も、どこにもありませんでした。

鍵屋さんに言われた時間を過ぎて、だんだん暗くなってくると、草木は一層高く、川音は一層大きかった。もう足元の見えず、車から少しでも離れることは、とてもできなくなりました。人の気配はなく、遠くの一本の古い街灯に、薄暗いオレンジの灯がぼんやりつくと、すぐにその周りには、虫がうじゃっと群がって、黒くなった。人の目と耳と鼻と皮膚はすっかり疲れ、2人は呆然として、髪の毛を逆立てたまま、少しだけ息をついてから、上を向いた。もう少し。

「あ、カシオペア座」と
「カシオペア座、だ」が、重なって聞こえました。

ハチ切った!なにそれ!うげー!
失礼した!じゃあなっ!逃ーげろー!!!!!!

2011年08月

08日

To Whom It May Concern

革新、を、説こうとすること、自体は、保守だ。

2011年08月

08日

The End Of Summer Festivals

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2011年08月

06日

God's Child

朝露でびっしり濡れていたので、ベンチには座らずに、ベンチの横にしゃがんだ。サンダルの先から出ている足の爪の、赤いマニキュアが禿げている。どの指も、爪の根元の方から禿げていた。ちくしょう、寒い。辺りは少しずつ、明るくなる。

目の前に、大きな大きな大きな木が3本。これが垂乳根だと、その子は教えてくれた。ワタシは垂乳根をはじめて見た。木の横を何年も毎日通っているのに、ワタシはその時に垂乳根をはじめて見たし、それから垂乳根を見なかった。

幹がかすんでいる。太くなったり細くなったりした。葉っぱがかすんでいる。色も形もなくなった。遊具も揺れている。道を挟んで向こうのマンションも、その横に並んで止まっている車も靄に包まれていた。ああ、そうだ、コンタクトをしていない。肩と唇が震えはじめた。

人が通る気配がして、ワタシはその方を見て目を擦り、顔をかくした。また人が通る気配がして、ワタシはその方を見て目を擦り、顔をかくした。また人が通る気配がして、ワタシはその方を見て目を擦り、顔をかくした。

「らあ!」と呼ばれて顔をあげれば、その子だった。顔はよく見えず、怒っているのか笑っているのか泣いているのか、わからない時こちらの顔も、その全部の中間になった。その子は、バサッと何かワタシの顔の上にかける。瞬間に立ち上がって、それを掴んだなら、それは黒くて、、ジャケットだった。ワタシがいつも着ている黒いジャケットだった。「ちょっと」と、その子に向かって声をあげた時、その子はもうワタシに背中を向けて、向こうの方を歩いていた。

あのね。ワタシは帰りたいんだし。寒さに我慢ならなかったんだし。あのね。ワタシは帰りたいんだ。こんなジャケットいらないし。ちょっと。ワタシは帰りたいんだし。こんななんにもいらない。ワタシは帰りたいのだ。帰ってその子に謝りたかった。ワタシは帰りたい。

ちょっと!!!

思いっきり走って行って、その子の方に、ジャケットを投げつけた。途中で何かに躓いて、サンダルが両方とも脱げた。「余計な事をしないでくれるか!!!」と、言う前にその子が大声で泣いたから、びっくりしてワタシは立ち止まると、雨がドサーっと降ってきた。その子は一層大きく、雨の振り来る方に顔を向け、手をかざして泣いたのだ。

うぎゃーーーーー!!!!!っと泣いた。じゃばーーーーー!!!!!っと降ってきた。ぎょえーーーー!!!!!っと泣いた。どりゃーーーーー!!!!!っと降ってきた。

ワタシはどうしていいかわからずに、びしゃびしゃのジャケットを拾って、そっとその子にかけてみた。その子はジャケットをビリビリに引き裂いて、小さく引き裂いて、そこら中に撒いた。ジャケットは、辺り一面をくるくると舞い続けた。一片が、ワタシのサンダルをすくって、高く高く飛んでいった。

2011年08月

06日

Underground

男は、白いスウェットパンツに、白いシャツ、ベージュのニット帽をかぶり、薄いグリーンのスニーカーのかかとを潰して履いていた。ザッ、、。ザッ、、。ザッ、、。ザッ、、。誰もいない地下の駐車場。400台収容、とあるが、止まっている車は、1、、2、3、、4台。外から数度、大きなブザー音が聞こえた。遠くかすかには、若者がはしゃぐ声。男は、手ぶらで、両腕をぶらんとさせ、足を外側に開き、ゆっくり、ゆっくり、大股で歩いた。どこにも力を入れずに、なにをもなぎ倒しそうに歩いた。眉間に皺を寄せ、何度もため息をついた。右ポケットから携帯電話を出してスクロールし、すぐに戻してまたため息をついた。男は、前も上も下も見ていなかった。ザッ、、。ザッ、、。ザッ、、。ザッ、、。月がものすごい早さで左に移動した。

2011年07月

30日

Purple Disaster

もう全っっ然。送れないのだ。たったひとこと『東京だよ』のメールが送れない。ギリギリまで黙っていたワタシが悪いが、だってその時までどうなるかはわからなかったし、時間をつくれて会えるとは限らないのだし、そのためにその人が楽しみにでもそうでなくても、予定をあけて待っていては困るし、だから送らなかった。しかし絶対に、ワタシはどんな隙間をぬってでも、その人に会いに行こうとすることは知っていたのに。隙間に、今だ!と思って『東京だよ』と打とうとするのだが、それがどうしても打てない。そうこうしているうちに、その人は、ワタシが東京にいるとも知らず、もうすぐ用事を済ませて帰ってしまうだろうし、ワタシはその日の帰りの飛行機のチケットを、ワタシの分とワタシと一緒の仲間の分、これから手配しなければならなかった。

何度も再起動を繰り返していると、iPhoneのメール画面の様子が、どんどんおかしい。顔がでかく目のキラキラした猫がいる。猫の隣にある日本語入力のひらがなのキーは『と、な、か、お、し、き、n、!、?』と横に並んでいて、『と』をタッチしても、長押ししても、スライドしても、猫もキーも入力スペースも、ぴくりとも反応しない。しばらくして、ちらちらと画面が消えそうになった後『んん』と入力された。動いた。でも違う。全部の文字を順番にやってみる。な。違う。か。違う。お。違う。変換。違う。変換。違う。スペース。違う。『し』をタッチした時、また時間をおいて、今度は『とう』と入力された。それだ!「東京だよ」「東京だよ」ワタシは何度もつぶやきながら、次の『き』をタッチする。するとまた時間をおいて『とう』の後ろに『あ”/』とついた。

「打てないの!なんで!」とワタシが言うと、「なにが」と隣の人が言い、「東京だよ!東京だよ!と打ちたい!打てない!もう時間がない!」とワタシが言うと、隣の人は黙って自分の荷物を下ろし、荷物からパソコンを取り出してワタシのiPhoneに繋げた。パソコンの画面にも、顔がでかく目のキラキラした猫がいた。隣の人は、そのまま何も言わずにパソコンの画面に向かい、ワタシは何度も隣の人に「東京だよ!」「東京だよ!」と叫び続ける。iPhoneの時と同じようで、何度やってもキーはその都度でたらめに反応した。「もうわかった!コピペして!東京だよ!」打てなければ、コピー&ペーストをすれば良い。ところが何をどうしても、コピーもペーストもされなかったのだ。

その時、iPhoneがなにかを受信した。画面は崩れ、たくさんの画像が重なりチカチカと光ったが、受信した手書きの文字が現れた。文字は赤かった。『ぶあぁぁぁぁぁか!!!!』ワタシはiPhoneをパソコンから外し、なんとかその受信したものを開く。手描きの『ぶあぁぁぁぁぁか!!!!』の文字に、添付された写真が一面に現れた。その写真には、ワタシがさっきから『東京だよ』と送ろうとしている相手、その人が映っていた。写真のほとんどが、紫だった。やっぱり、ワタシはなにか大変な事をした、とワタシは思った。

写真の中で、青白い顔をしたその人は、紫色の吐瀉物にまみれて、バケツの上に倒れていた。やっぱり、ワタシはなにか大変な事をした、とワタシは思った。文字と写真を送ってきたのは、今その人と一緒にいるであろう人で、その人と、今その人と一緒にいるであろう人は、三軒茶屋にいることを、ワタシは知っていた。とにかく三軒茶屋に向かわなければ。ワタシは荷物の全部をそこに置いて、駅のホームに急いだ。

その駅のホームにいたのである。その人は、青白い顔をして、たくさんの人に身体を支えられ、震えていた。おそらく白かったであろうロング袖のTシャツは、薄紫色に染まって濡れていた。その人は、ワタシを見ると、一瞬驚いた顔をして少し笑った。その人は、少し笑ってから、支える周りの人を離れて、1人で歩いた。周りの人もワタシに気づき、驚く者もいれば、無反応の者もいた。「お仕事ですか」と、誰かがワタシに言った。「来てたんだけど、、メールを送ろうとして、、帰らなきゃ行けないから、、やっぱり紫が、、ごめんなさい」と、ワタシは口にしたかどうかわからない。その人の側に行き、写真が送られてきたから、と言ったのだ。写真を送ってきた人は、そのホームにはいなかった。その人は、はははと笑って、ワタシにその人の携帯を差しだした。そこには、その人が今まで一緒にいた、ワタシに写真を送ってきた人が映っており、赤い服を来て、サングラスをかけ、スーツケースの上に寝転がって、こちらを向いて舌を出していた。それを見て、はははとワタシも笑った。

その人と、周りの人が、ホームに着いた電車に乗ろうとしたので、ワタシは慌てて叫ぶ。「ちょっと!!ワタシの荷物!!全部持って来て!!1つ残らず!!全部!!」誰かが1人走って行って、小さな数人が、たくさんの荷物と共に走り戻った。彼らが抱える鞄からは、パソコンの線や、布切れがはみ出していた。彼らが引きずっているのは、抱える鞄なのか、彼らの足なのか、わかりにくかった。彼らがちゃんと、散らばっていた小さな部品の全部までを持って来たかどうか、ワタシはとても心配だったが、それらを確認する暇もなく「全部ね!!」とワタシは言って、みんなで電車に乗り込んだ。その様子を口を開けて見ていた誰かが「すっかりまるでAV女優だな」と言った。

車内は混んでいたが、その人は座れたようだ。ワタシはできるだけ、その人の側に立とうとしたが、乗り来る人々に押されて移動しなければならなかった。ワタシは、その人を見つめたまま、流れるままに移動した。その人も、青白い顔をして、こちらを見ていた。その人は、紫色に染まったシャツの胸元を掴んで扇いだ。よく見ると胸元には、見たことのあるカラフルな柄がプリントされている。その人は、赤い生地に黒い斑模様のパンツを履いていた。ふと気がつけば、ワタシは紫に白いドットのパジャマを着ているではないか。黒いブーツを履いていた。髪はボサボサで、化粧もしておらず、赤い縁のメガネをしていて、顔も洗っていなかった。一度だって、そんな格好を、その人に見せたことがない。ワタシは、その人に、言い訳をたくさんしたかった。その人にだけは、これら全ての経緯を、正確に説明したかった。ワタシは、流されて移動した。

ワタシは、流されて移動した。途中で何かに躓いた。足元を見ると、男性の足だ。その足をたどると、肌色の布が腰に巻かれており、上半身は裸、金色の髪も髭も長く、大きな目は見開かれていた。「ごめんなさい」と言おうとしたが、男性はワタシが躓いたことにも気がついていない様子で横たわっていたので、ワタシは何も言わずに足をまたいで、そのまま流されて移動した。男性に膝枕をしている女性は、派手な扇子を扇ぎ、その隣の女性と高い声で笑っている。ワタシの後にも何人かが、その男性の足に躓いたり、足を踏んだりしていたが、男性の様子は変わることがなかった。

ワタシは、流されて移動して、狭い空きスペースにたどり着いた。立てかけられていた誰かの大きな荷物に隠れて、その人を見た。その人は、青白くだらんと座ったまま、こちらを見ていた。メガネの縁が、荷物に当たってコツンといった。ワタシはあるだけの力を全部込めて、その人の方に向かって、大丈夫だよ、と言った。その人は、青白くだらんと座ったまま、それからもうこちらを見なかった。

2011年05月

27日

Away From Dad

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ねえもっとおしてーパ、ユリエちゃん、きゃはああ、ねえもっとおしてーパパあユリ、きゃははははははあああ、ねえもっとおしてー、ねえもっとおしてってばー、ねえパーパ、、、ねえーーユリエちゃん、ねえもっとおしてー、もっとおしてってばーー、きゃはあああああああああああ、きゃはああああああああ、ねえもっとおして、ねえもっとおして、ねえねえ、もっとおして、きゃはああああ、ねえもっとおしてーパパ、きゃああああああああああ、ねえユリエちゃん、もっとおしてー、きゃあああああああああ、きゃはああああああ、ねえねえ、きゃはあああああ

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